この感情をどう受け止めればいいのかわからない
姉さんが帰ってきて、母親がいつになく明るい顔をしていた。
「いいよ、私やるよ、お母さん座っていて」
「あーでも、やっぱり、お母さんのご飯食べるのもいいなぁ」
姉さんの通る声がこっちの部屋まで無限の悪意のない明るさをつれてやってくるから、僕はイヤフォンの音量を上げた。
こんな平日の昼間に大学はないのか、と思った感情が綺麗に風に乗ってUターンしてきて僕の受け身を取り損ねた体にブーメランとして突き刺さる。
別に友達ができなかったわけでもない。勉強ができなかったわけでもない。
なにか理由があるのだったら僕だってどうにかしようがあったのだと思う。いじめられているのなら転校を考えればいいし、勉強ができないのなら家庭教師を頼むとか予備校に行くとか、理由があることには人は対処しようがある。
でもこの場合僕にとって一番困ったのは理由がないことだった。
「なんでも話して欲しい」
という言葉を、両親にも言われたし友達にも先生にも先輩にも、なんなら後輩にすら言われた。
僕は恵まれていると思う。これだけ周りに恵まれていて、しかも成績だって特に頑張っているわけでもない割にはいい方だ。
別に失恋したわけでもない。そもそも恋人も好きな子すらもいないのだから。
だけど僕は、本当に突然ある日、どうしても帰り道歩けなくなって、探し回った親に連れられて帰宅した次の朝には布団から出られなくなっていた。
そして不登校児としての人生が始まって、周り中から
「悩みがあるなら言って欲しい」
と言われ続ける拷問の日々に投げ込まれたのだった。