お店、営業は夜からですけど
「ここからそう遠い場所ではないし、店の場所も分かっている。直接出向いてみよう」
俺の提案に二人とも同意し、神の家を出ることにした。ちなみに武器は神の力が込められていたので、装備していても視認されることはない。
バトラーが呼んでくれたハイヤーに乗り、エミリアの店が入っているビルへと向かった。
地上に関する知識は、ソフィア同様本から仕入れていたアクラシエルだったが、実物を目にした際の驚きは、ひとしおだったようだ。窓から見える景色に釘付けになっている。
隣の運転手が困惑するぐらい、アクラシエルは正面に見える建物に驚き、左手の窓から見える景色に感嘆した。
一方のソフィアと俺は、エミリアの店が入るビルが近づくにつれ、郷愁に駆られた。
あの公園は……魔界から堕とされ、千年ぶりに踏みしめた地上だった。ここがどこであるのか確認するように周囲を見渡した俺の元に、ソフィアが駆け付けて……。
つい、隣に座るソフィアの手を握っていた。
ソフィアはそれに気づき、俺を見て一瞬頬をバラ色に染めたが、すぐに窓の外の景色に目を向ける。あの公園でロルフやベラと再会したことを、ソフィアも思い出しているはずだ。
それは握った手を握り返したことからも、伝わってきている。
エミリアの店が入るビルに面した道路に向け、右折すると……。
あの道を曲がり路地に入り、暑すぎる日本の夏に根をあげ、上着を脱いだ。
ソフィアのドレスは長袖だったので、袖を引きちぎろうとした。俺はソフィアの肩を押さえ、袖を根本の部分から一気に力を込めて引っ張った。生地が破れる音にソフィアは目を閉じ、ベラは「なんか、マティアスがソフィアを襲っているみたい」と聞こえの悪いことを言い……。
でも片方のドレスの腕だけ、白磁のような白い肌が露出すると、それは確かになんだかエロティシズムを感じさせ……。
ソフィアが俺の手をぎゅっと握り、頬を少し膨らませている。
まるで何を考えているかお見通しという感じだった。
「こちらのビルでよろしいですか?」
徒歩でこのビルに向かった時は、公園からかなり距離があるように感じたが、ハイヤーだとあっという間だ。
「ああ。ここに止めてもらって構わない」
ハイヤーが右折し、ビルの脇に車を止めた。
◇
ハイヤーを降り、早速エミリアの店がある地下へと向かう。
この時間だと、掃除当番が丁度出勤してくる。そして夜の営業を終えたエミリアが、そろそろ目責める時間だ。
「あの頃と変わっていませんね」
ソフィアが柔らかく笑みをこぼす。
俺たちの目の前には、木製のガラス張りのドアがあった。上の方はステンドグラスになっている。そのレトロな雰囲気は魔界の城を彷彿とさせ、ホッとしたことを思い出していた。
まさに扉を開けようとした時。
「あの、お店、営業は夜からですけど」
俺とソフィアは後ろを振り返った。
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次回更新タイトルは「会いたかった!」です。
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