寂しがり屋の元魔王
地上が見えてくると、自然と懐かしいという気持ちが沸きあがる。
何の縁もゆかりもない極東の島国・日本だった。
そこに住んでいたのはわずか数カ月。
でもそこでは初めて体験することも多く、とても密度が濃い時間を過ごした。
何よりこの地で俺はソフィアにすべてを打ち明け、想いを伝えたのだ。
「あっ」
ソフィアが小さく声を漏らす。
俺たちの住んでいたエリアのシンボルとなるタワーが見えたのだ。
懐かしそうな顔をソフィアはしている。
ここで過ごした時間を、ソフィアもまた思い出しているのだろう。
「マティアスさん、ソフィアさん、神の家はあちらです。あの輝きが目印です」
アクラシエルが言う方角を見ると、神々しい輝きが見えた。
天使の光にも等しい強い光。
俺が魔王だったら、今ごろ目が眩んでいたところだ。
ゆっくり神の家のエントランスに降り立った。
すぐにドアマンがドアを開き、中からバトラーらしき人物が現れる。
「お待ちしておりました。悪魔狩りの騎士の皆さまですね。マティアス様、アクラシエル様、ソフィア様。どうぞ、こちらへ」
エントランスホールに入ると、あの日のことを思い出す。
「二人とも、よく来てくれたね」
俺たちを迎えに出てきたphantom……ラファエルは、ウオッシュ加工された白シャツに、体にピタッとフィットした黒い革のズボンをはいていた。
そういえばあの時はラファエルが女性にしか見えなくて、その後ろ姿を……黒い革のズボンに包まれたキュッと引き締まったヒップを、女性であると確認するためにガン見して、ソフィアに怒られたんだっけ。
思い出し笑いをする俺を、アクラシエルは不思議そうに見ている。一方のソフィアは、俺が何を思い出したか気づいたようで、ぷうっと頬を膨らませていた。
「ご滞在中は、こちらの三つのお部屋をお使いいただくことになります」
白髪のバトラーは、手前の部屋のドアをカードキーを使い開けると、中に入るように促す。
「マティアスさん、どうぞこちらの部屋を」
アクラシエルに言われ、俺が部屋に入ると、バトラーが後に続く。そして部屋について簡単な説明を行い、最後にこう告げた。
「こちらの内線電話でレセプションにつながります。そちらで御申しつけいただければ、お食事のご用意から掃除、必要な物のお届け、お部屋のトラブルの対応などすべて行いますので」
俺が頷くとカードキーを渡し、バトラーはドアの方へ向かう。
廊下にはソフィアとアクラシエルがいたが、バトラーが出るとドアが閉じられ、二人の姿は見えなくなった。
……。
当然と言えば、当然の対応だ。
ソフィアと俺は婚儀を挙げていない。
天界で同じ部屋に住んでいるのは……アクラシエルの配慮があったからだ。でも今は悪魔狩りのパーティとしてここに滞在するわけで、ソフィアと俺の関係なんてバトラーは知るよしもない。
そうとは分かっていたが、気持ちが落ち着かず、すぐに部屋を出る。
廊下には誰もいない。
バトラーが部屋を案内中かどうか分からなかったが、とりあえず隣の部屋のドアをノックした。
すぐにドアが開き、ソフィアが顔を出す。
部屋に入ると、ソフィアを抱きしめた。
お互いに『役割』をこなす時は離れ離れになっているのに、ただ別々の部屋に案内されただけで不安になってしまう。
「マティアス様……」
ソフィアが驚きながらも、俺の胸に体を預けていることが感じられた。
「別々の部屋なんて認めない。ソフィアもそうだろう?」
「……ではこの部屋で一緒に過ごしましょう、マティアス様」
そう言ってソフィアが俺を見上げる。
「うん」
短く答え、ソフィアにキスをしようとしたその時、ドアがノックされた。
アクラシエルだ。
ソフィアとキスしたいところだが、アクラシエルはラファエルに会いたい気持ちを我慢している。ソフィアから体を離し、ドアを開けた。
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次回更新タイトルは「今すぐ見にいって行きます」です。
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