忘れていた。そんな大切なことを
「ただいま、ソフィア」
家に帰るとソフィアが俺に抱きついた。
「お帰りなさいませ、マティアスさま」
その体を抱きしめ、ただいまのキスをする。
「晩御飯、用意できています」
「ありがとう、ソフィア」
頭を優しく撫で、そしてもう一度キスをした。
ダイニングテーブルを見ると、様々な料理が並べられている。
「実はピクルスを作ったんです。この赤と黄色のパプリカがそれです。あとこれは蒸し野菜で、ポン酢で食べます。それとこれは天ぷらです! オリーブオイルで挑戦してみました」
「すごいな、ソフィア。野菜と言えば、俺だとスープかサラダ、野菜炒めぐらいしか思いつかないのに」
「いえ、元魔王様がそれだけ作れれば十分ですよ。それより、冷めないうちに召し上がってください。肉厚キノコの天ぷらは岩塩がおススメです」
「分かった。食べよう」
早速ソフィアと俺は、夕ご飯を食べることにした。
食事をしながら、俺はアクラシエルに三人で悪魔狩りへ行くことを提案したと報告する。そしてアクラシエルがその提案を快諾したことも話した。
「良かったです。しかも『神の家』に滞在できるのは便利ですね」
「それで明日、早速『天界軍騎士総本部』へ行くことになった。『役割』を数日休む件は、アクラシエルからホワイト・ベーカリーにも話を通してくれるそうだ」
「分かりました。あの、私はそれで構いませんが、マティアス様いいのですか? その、今日この後、神殿へ行くつもりだったのでは?」
……! 忘れていた。そんな大切なことを……!
俺の表情を見て、ソフィアはくすくすと笑う。
「マティアス様らしいですね。ご自分のことより誰かのことを気遣うところは。そんなマティアス様だから、ロルフもベラも、マティアス様のことが大好きなんですよ。もちろん私も、そんなマティアス様が大好きですよ」
「……ソフィアは怒っていないのか? 神殿に行く約束を忘れ、アクラシエルと悪魔狩りへ行く約束をしてしまったことを」
ソフィアは優しい笑みを浮かべた。
「怒るわけがありません。こうやってマティアス様と一緒に暮らし、食事を楽しみ、夜空の散歩もできています。それに……」
ほんのり頬をバラ色に染めたソフィアは……。
「私はマティアス様とベッドで抱きしめ合い、キスをされるだけで十分満たされているので……」
それは……。
嬉しくもあり、困ったことでもあり……。
でもまあ、ソフィアがそれで幸せを感じてくれているのなら……。
「でもいつかは……マティアス様ともちろん一つに結ばれたいですよ。でもこの先まだまだ長い時間が待っているのですから……。ラファエルとエウリール――ウリエルが天界に戻れば、ガブリエルの嫌がらせも収まると思います。それまでは……」
「……そうだな。少なくともラファエルは、地上にいることは不本意だろうから、必死に修行をしていると思いたい。だがエウリールはどうなのだろう? あいつは天界に戻りたいとはこれっぽっちも思っていないだろうからな」
俺の言葉にソフィアは、悪戯を思いついた子供のような表情をした。
「エウリールはマティアス様にゾッコンです。エウリールが天界に戻れば、私とマティアス様が婚儀を挙げられると知れば……。善行を重ねすぐに天界へ復権してくれそうです」
「なるほど。そして俺とソフィアが婚儀を挙げたら……」
「何かしでかし、また地上へ行くかもしれませんね」
そこで俺とソフィアは、エウリールのそんな様子を想像して笑ってしまう。
「マティアス様、今晩は夜空の散歩をしましょう」
「そうだな」
穏やかな夕食の時間を過ごし、その後は夜空の散歩を楽しんだ。
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次回更新タイトルは「希望エリアは……日本?」です。
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