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練習をしたい!

夜が明ける前に部屋に戻るつもりだったが、朝になってしまった。


カーテンの隙間から朝陽が差し込んでいた。


自分の腕の中で静かに眠るソフィアを見た。


昨晩、俺は一か八かの賭けに出た。


悪魔が使う催淫効果は、本人の気持ちが高ぶり、高揚感が得られれば、その効果は収まる。


ソフィアは男女の秘め事について疎かった。


俺がそういう情報に触れないよう注意を払ってきたせいもある。


……地上に降りてエミリアの店で世話になることは想定外だったが。


だから抱きかかえられ、ベッドに運ばれ、抱きしめられただけで、もうソフィアの頭の中はショート寸前だった。


俺に抱きしめられたまま、ソフィアの催淫効果は落ち着き、そのままワインの酔いで眠りについてくれた。


ソフィアの眠りが深くなったら、自分の部屋に戻るつもりだった。


それまでの間、深呼吸して自分の気持ちを静めていたのだが、どうやらそのまま眠ってしまったようだ。


ゆっくりソフィアの頭を持ち上げ、自分の腕を引き抜いた。


そして細心の注意をはらい、起き上がった。


ソフィアにタオルケットをかけると、俺は部屋を出た。



シャワーを浴び、自分の部屋に入るとロルフがベッドで俺を迎えた。


「マティアス、せっかくのチャンスだったのに」


「なんの話だ?」


「昨日飲んだワイン、あれ、催淫効果、あったよな」


「そうだな。ロルフ、お前、ノラにのしかかっていたぞ。後でちゃんと謝罪しないと」


「あー、それは大丈夫だ」


「そうなのか?」


「マティアス、実はな、オレとノラはそーゆう関係なんだ」


「……⁉」


「戦場を何度も共にしているうちに、なんかそーゆう気持ちが芽生えてしまった」


「それは……気づかなかった」


「だってマティアス、千年前に禁欲生活に入ってから男女のそーゆうことに目を向けなくなったよな。だから気づかなかったのさ」


それは……確かにそうかもしれない。


「それでいつまで続けるつもりなんだ、その禁欲生活。オレたち地上に落ちて、もう悪魔じゃないのに。……まあ、オレはかろうじてまだ悪魔だけど」


「それは……」


まだ俺自身、決めかねていることだった。


ただ、まだ何が起きるか分からない、という気持ちが強いのは確かだ。


「人間って、寿命があるからな。とっと動かないとよぼよぼの爺さんになって死んでしまうぞ、マティアス」


「……そうだな」


有限の命の中で生きる人間……。

ずっと他人事だったのに、自分がその立場に立つことになるとは……。


俺はふと過去を思い出し、笑みがこぼれた。


今度は立場が逆転だな。


皮肉なことだと思いながら。



「おはようございます。マティアス様。……その昨晩はなんだかご迷惑をかけてしまったようで、すみませんでした。酔いが回ったようで、記憶があやふやでよく覚えていなくて申し訳ないのですが……」


「おはよう、ソフィア。なにも問題はない。ちょっと洗い物で手が滑ってグラスを割ったぐらいだ。その後は酔っ払いならよくあることばかりだったから、気にする必要はない」


「……はい。今後は飲み過ぎないよう気をつけます」


ソフィアそう言って深く頭を下げると、朝食を用意するためキッチンへ向かった。


俺は洗濯機を回そうと立ち上がった。


外を見ると、天気も良く、今日も暑くなりそうだった。



「練習をしたい?」


「はい。明日、小説の表紙と挿絵に代わる写真の撮影があるじゃないですか。それで……その……事前に練習しておかないと不安というか……当日、慌ててしまいそうで……」


俺とソフィアは明日、日中は外で、暗くなったらスタジオで例の小説の写真撮影に参加することになっていた。


事前に小説のゲラは渡されており、挿絵がどこにはいるか、どんなカットで撮影を予定しているのかは案内されていた。


そしてソフィアは今から撮影に備えた練習をしたいと俺に提案していた。


……確かにいくつかソフィアが不安になりそうなカットがあった。


「よし。俺も事前にできると安心だから、練習しよう」


俺の言葉にソフィアがホッとした顔になった。


……俺から提案してあげればよかったな。


「ロルフ、事前に練習した方がよさそうなシーンを指定してくれ」


「オレ⁉ あ、うん。分かった」


俺が睨むとロルフは慌てて起き上がった。


ロルフは小説のゲラを器用にめくり、ソフィアがつけた付箋のページを開いた。


「えーと。魔王が令嬢を後ろから優しく抱きしめるシーン。二人の距離がぐっと縮まるきっかけになるらしい。これとか練習するといいんじゃないか?」


ソフィアはロルフの言葉に頷いた。


「じゃあ、ソフィアはそこに立って。マティアスはそう、そこで」


ロルフに言われ、俺とソフィアは位置についた。


「ではマティアス始めて」


抱きしめるという前提でソフィアの後ろ姿を見ると、俺より身長も低く、肩幅も狭く、とても華奢に見えた。


強く抱きしめたら壊れてしまいそうだ。


優しく包み込むように両腕をソフィアの肩に回し、髪に顔をうずめるように抱きしめた。


抱きしめたその瞬間、ソフィアがビクッと反応したのが分かった。


さらに髪に顔をうずめると、全身が強張っているのが感じられた。


「ソフィア、顔が真っ赤よ」


ソファに座り、俺たちの様子を見ていたベラが指摘した。


「ふいに後ろから抱きしめられて驚く、って感じだから、そこまで真っ赤になるとNGがでそうだな」


ロルフにもそう言われたソフィア困り切った様子だった。


「でも多少顔が赤くても、最近はパソコンで写真を加工できるんだろう?」


俺の言葉にベラもロルフも「そうだけど……」と言い、ソフィアを見た。


腕をほどき、ソフィアから離れた。


振り返ったソフィアは、顔はもちろん耳までバラ色に染まっていた。


……これは……。


パソコンで加工とかのレベルじゃないな。


こんな状態じゃカメラマンも驚くだろう。


俺としてはここまで照られると男心をくすぐられ、堪らないのだが……。


何かソフィアを落ち着かせる方法はないのか。


そうだ!


「ソフィア、エミリアがふざけて抱きついてきたと思え。俺だと思わずに」


俺の言葉にソフィアは目をパチパチさせ


「……あ、なるほど……」


小さく頷いた。


「後ろは見えないのだから、今、後ろにいるのはエミリアだと思ってみろ」


そうやって何度か繰り返すと、ソフィアが赤くなることもなくなった。


「ありがとうございます。これでなんとかなりそうです!」


ソフィアの言葉に俺たちはホッと胸をなでおろした。


昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!

この投稿を新たに見つけていただけた方も、ありがとうございます!


次回更新タイトルは「眠るソフィアのおでこにキス」です。


明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。

それでは明日も学校、お仕事、頑張りましょう‼


【お知らせ】4作品目更新中


『歌詠みと言霊使いのラブ&バトル』

https://ncode.syosetu.com/n7794hr/


バトルパートでは激しい戦闘もあればコミカルな戦いもあり

恋愛パートは思春期の男子らしいHな描写もあれば、甘く切ない展開もあります。

仲間との友情も描かれています。

全67話で、初となるお昼の時間帯、11時に数話ずつ公開しています。

少しでも興味を持っていただけましたら、来訪いただけると幸いです。

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