規格外の強さ
「え……ソフィアさんは弓を使えるんですか⁉」
食堂で昼食を食べ始めてすぐ、俺はソフィアが弓を使えるということをアクラシエルに話した。
するとアクラシエルはスープを飲む手を止め、驚いた顔をした。
「実は俺も弓を使えることを知らなくて驚いた。しかもその腕は、悪魔狩りのパーティを組めると太鼓判をもらっているらしい」
アクラシエルの瞳が、夢見心地なものへと変わっていく。
「……すごいな、ソフィアさん。まるでラファエル様みたいだ。美しくて可憐なのに、戦地へ赴く時のラファエル様は、帯刀し、弓を持ち、空飛ぶ白馬にまたがり……」
結構強めに咳払いをして、アクラシエルに現実へ戻るよう促す。
「ハッ、すみません! すっかり夢想していました。で、でも、ソフィアさんとラファエル様は別ですからね。ソフィアさんに何かするなんて絶対にしませんから」
「勿論そうでないと困る。何かあったら地上に堕とされる覚悟でお前の腕をへし折るからな」
アクラシエルは俺の言葉に固まる。
「それで、だ。俺は十分に戦える。ソフィアも戦力になる。だから俺たちとパーティを組んで、悪魔狩りに行かないか?」
そう言ってから、声のトーンを落とす。
「無論、悪魔を狩るつもりはない。どうしてもの時は対処するが。アクラシエル、お前をラファエルに会わせるために、地上へ行くんだ」
アクラシエルは驚き、そして満面の笑顔に変わる。
「ほ、本当ですか、マティアスさん! 私、ラファエル様に会えるのですか⁉」
「ああ。昨日、悪魔狩りや騎士について調べた。百体以上の悪魔を狩った騎士がいるパーティは、悪魔狩りのために捜索をするエリアを指定できるらしい。俺は……不本意ながら百体以上の悪魔を既に狩っている。だからラファエルがいるはずの日本というアジアの島国へ、悪魔狩りの名目で向かうことができるはずだ」
するとアクラシエルは、今度は驚愕して動きを止めた。
「たった二度ですよね、マティアスさんが悪魔狩りへ行ったのは⁉ それで百体以上って……。それってもう大天使並ですよ⁉ 普通の悪魔狩りのパーティでは、だいたい一日がかりで飛び回って、十体から多くて二十体ですよ。パーティで狩った合計が、ですよ。一人の天使で換算したら、だいたい六体の悪魔を狩る計算です」
今度は俺がアクラシエルの言葉に驚く番だ。
「一日がかりでたった六体なのか⁉」
アクラシエルは「何を言っているんですか!」と前置いていから説明する。
「悪魔は隠れるのが得意で、まず見つけ出すのが難しいのです。それに戦闘力もあるから、地上へ落ちたとはいえ、大怪我でも負っていない限り、悪魔を倒すのには時間がかかります。……まあ、私が他の天使に聞いたり、文献で見たりした情報ですが。でもこれだけは確かなことです。マティアスさんは規格外ですよ。……いや、でもそれがマティアスさんなんですね。さすが元魔お……うぐっ」
慌ててアクラシエルの口にパンを放り込む。
「アクラシエル、ここで余計なことを口にするな」
アクラシエルは、分かったとばかりに何度も頷く。
「ともかく、だ。地上へ降りた後だが、各国には『神の家』という天界の拠点があるだろう。そこで聞けばラファエルの所在も分かるはずだ。修行の身で人間になっているが、ラファエルは大天使だ。『神の家』にいる者ならラファエルの居場所を把握しているだろう」
アクラシエルは口の中のパンを飲み込み応じた。
「それは名案です、マティアスさん。『神の家』は、悪魔狩りで地上へ降りた騎士の活動拠点でもあるんですよ。……ほとんどの悪魔狩りのパーティが、日帰りで活動をします。理由は天使なので、天界にいるのが一番落ち着くからです。それにマティアスさんも悪魔狩りから戻った時、神官による『癒し』を受けましたよね?」
俺は頷く。
「あの場にいるのが神官だとは知らなかったが」
「ああ、なるほど。マティアスさんは天界について何も知らない状態で悪魔狩りに向かったのですから、知らなくて当然です」
アクラシエルはそう言うと、分かりやすく説明してくれた。
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次回更新タイトルは「名案です!」です。
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