ソフィアの秘密
「ソフィア、それは……もしそうできたら最高だろうな。でも万が一のことがあって、二者択一を迫られたら、俺は間違いなくソフィアを守ることを選ぶ。戦闘力がある天使が俺一人では……」
「実は私、弓の扱いについては覚えがあるんです」
「え……?」
「マティアス様が魔王として戦場に出ている間、私は弓の扱いを覚え、練習を続けていました。多分、私は人間だった頃から弓を使えていたのではないでしょうか。そして天界にいた三年間もおそらく弓を使っていた……。だからなのか魔界においても弓は難なく使うことができました。矢と弓を手にすると自然と体が動いた感じでした」
あまりにも驚き、手に持っていた胡桃のパンを、ボロっと皿の上に落としていた。
「そう、なの、か……?」
「はい。悪魔狩りで地上へ降りたとしても、マティアス様に比べれば劣るとは思いますが、天使の光も使えるなら、相応の戦力になると思います」
「……!」
知らなかった。ソフィアが弓を使えるなんて。
でも……。確かにソフィアは細いし、華奢だが、全体的に筋肉はついていた。
ムキムキ、というわけではなく、程よく筋肉はついていたが……。
ソフィアと戦闘のイメージが結びつかなかった。だから武器を扱える、弓を使えるなんて想像できなかった。
しかし。
地上で人間として生きていたソフィアは、それこそ斧を振り上げ蒔き割りもしていた……。
「そうか。ソフィアを戦力に考えていいなら、さっきの話は夢物語ではなくなるな」
「はい。明日、マティアス様からアクラシエルさんに話してみてください」
「そうだな。……だがソフィア、弓の腕は本当に大丈夫なのか……?」
するとソフィアはバツの悪そうな顔をした。
「どうした、ソフィア……?」
「実はマティアス様がガブリエルに無理矢理悪魔狩りに連れ出された時、すぐにはイチイの巨木には行かず、その……弓を探しに行ったんです。それで悪魔狩りから帰還した騎士から回収した武器が置かれている小屋を発見して……。そこで弓と矢を拝借し、まずは今もちゃんと使えるか確認したんです。もちろん、弓の腕は健在でした。
でも武器を管理している天使に見つかってしまい、『何をしているんだ⁉』と怒られてしまいました……。ただ、悪魔狩りに行きたくて、と話したら、心意気を買われ、それなら『天界軍騎士総本部に行き、パーティを組んでもらうといい。その弓の腕なら、すぐにパーティを組む仲間の騎士が見つかるだろう。悪魔狩りには三人一組で行くものだから』と言われたんです」
今度は野菜スープの入ったマグカップを持ったまま、動きを止めていた。
まさかソフィアがあの時、俺の後を追いかけようとしていたとは。しかも弓の試し撃ちまでしていたとは。それどころか弓の腕を認められていたとは……。
ガブリエルが「君は……ただ守られるだけの美しい女性の天使というわけではないようだ」と言っていたが、まさにその通りだった。
「……マティアス様、怒っていますか? 勝手な行動をしたことを……」
マグカップをテーブルに置き、首を振った。
「むしろその逆だよ。ソフィアのことを誇りに思うよ。……ただ、無茶はしないでほしい。ソフィアの身に何かあったら俺は……」
「無論です。私もマティアス様と離れたくはないですから」
マグカップを持ったまま固まる俺の手を、ソフィアは両手で包み込んだ。
今すぐソフィアを抱きたいと思った。
そうできない現実を作りだしているのは……ガブリエルだった。
ガブリエルの澄ました顔が脳裏に浮かび、それを打ち消すように目を閉じ、ため息をつく。
「……マティアス様、大丈夫ですか……?」
「すまない。ついガブリエルのことを思い出して……」
マグカップをテーブルに置き、ソフィアの両手を今度は自分の手で包み込んだ。
「……一日も早くソフィアを抱きたい」
「……!」
ここまでストレートに自分の欲求を口にしたことがなかった。だからソフィアは一瞬で顔がバラ色に染まっている。それどころから見える範囲全ての素肌がほんのりバラ色に変わった。
「明日、俺の『役割』が終わり、夕食を摂ったら、神殿へ行ってみてもいいか?」
ソフィアは顔をバラ色に染めたまま、首を縦に振って頷く。
ゆっくりソフィアの手を離した。
「ありがとう、ソフィア。……夕ご飯、食べてしまおう」
「……はい」
バラ色に染まり恥じらう様子のソフィアを眺めながら、食事を続けた。
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次回更新タイトルは「無防備な寝顔」です。
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