私ではない女性と出会っていたら
家に着くと、ドアの前にはアクラシエルの言う通り、白百合の鉢が置かれていた。
「これを一晩夜露にさらすなんて、可哀そうです。帰って来られて良かったですよ」
ソフィアは鉢を抱え、部屋の中に入っていく。そして出窓に鉢を置いた。
今晩は夜空の散歩はお休みにしようとなり、ソフィアは俺にシャワーを浴びることをすすめた。
「その間に晩御飯の支度をしますから」
その提案に従い、シャワーを浴びる。
食事を始めると、ソフィアはアクラシエルのことを話し始めた。
「ドアの前にあった白百合の鉢も、アクラシエルさんが私達を気づかって置いてくれたものですよね。本当にアクラシエルさんは……よくしてくださると思います。ただ、ずっと与えていただいてばかりですと、申し訳ない気持ちにもなります。私達で何かアクラシエルさんにできることはないのでしょうか?」
この言葉を聞いて嬉しくなっていた。
俺と同じようにソフィアも、アクラシエルに何かしたいという気持ちになっていたことに。
「実はソフィアと同じことを考えて、俺はアクラシエルに尋ねたんだ。そうしたら『何もできなくとも、ただラファエル様にお会いして、おしゃべりをしたい』、そうアクラシエルは言っていたんだ」
「そうなのですね……。地上へ行く方法は……」
ソフィアが思案顔になる。
「図書館の蔵書で調べたが、基本的には悪魔狩りか大天使から特別な任務を与えられた時ぐらいしかない。大天使からの任務、と言ってもそれは主による指示だ。それはよっぽどのことだろうし、ただの天使が地上へ行こうと思ったら、やはり悪魔狩りしか手段はないと言える」
ソフィアはドライフルーツがたっぷり入ったパンをちぎりながら首を傾げた。
「天使と人間が恋に落ちることはよくあるようですが、そうなるとそれは悪魔狩りへやってきた天使が人間を好きになった、ということなんですかね?」
「そうなんだと思う。……正直、俺が悪魔狩りで地上へ降りた時は、ガブリエルにこきつかわれていたから、人間を見る余裕なんてなかった。でも恐らく、俺は特殊だ。悪魔がいると思われる場所へ行っても、必ずしも悪魔に出会えるとは限らないと思う。
俺がソフィアと初めて会った場所は辺境の地で、あんな場所に堕ちた悪魔なんて俺ぐらいしかいないのでは?という場所だった。
だから悪魔を探す中で悪魔と出会わず、代わりに人間と出会い、そして恋に落ちることもあるのだと思う」
「そうなんですね。……でも辺境の地にマティアス様が堕ちてよかったです。私ではない女性と出会っていたら……」
手を伸ばし、指輪をつけているソフィアの左手を優しく持ち上げた。
「ソフィア以外の女性と出会っても、俺の心は動かなかったよ。俺にとっての運命はソフィアだから。そうでなければ千年もの長い歳月、想い続けることなんてできないだろう?」
ゆっくりと、掴んだ手の甲に口づけをした。
「マティアス様……」
頬をバラ色に染めるソフィアのその姿に、今すぐ抱きたいという衝動に駆られる。
だがそれを抑え、ゆっくり手を離した。
「……地上に行く方法は悪魔狩りのみ。それはアクラシエルさんも分かっていますよね? でも悪魔狩りに参加しないのは……」
ソフィアが俺を見る。
「うん。それについては『マティアスさんのように逞しく、屈強で強靭な肉体があれば、私も悪魔狩りに参加して地上へ行き、ラファエル様に会えるのに』と言っていた。確かにアクラシエルは……どう見ても戦闘向きではないからな」
するとソフィアは俺とまったく同じ反応を示した。
つまり、強い騎士とパーティを組み、悪魔狩りへ行けないのかと尋ねたのだ。
それに対し、アクラシエルから聞いたことを話した。騎士自身とパーティの成果を、主が武器を通じて把握しているのだと。
「そうでしたか。そうなるとアクラシエルさんとパーティを組む騎士はいないということですね。……それではマティアス様と私とアクラシエルさんでパーティを組み、悪魔狩りへ行くのはどうですか?
先ほどのお話ですと、悪魔狩りへ行っても必ずしも悪魔に出会えるわけではなく、空振りで終わることもあるわけですよね?
であるならば三人で悪魔狩りに行き、アクラシエルさんはラファエルに会う。マティアス様と私はロルフやベラ、運が良ければエウリールやエミリアさん、田中さんにも会えるかもしれませんよ?」
ソフィアは野菜スープが入ったマグカップを手に微笑んだ。
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次回更新タイトルは「ソフィアの秘密」です。
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