儀式
自動ドアなのか?
扉が勝手に動いたと思ったら、神殿の中にアリエルがいた。
よく見ると、左右の扉の背後にも、女天使がそれぞれ控えている。自動ドアではなく、この天使たちが扉を開けたのだ。
それよりも。
なぜ神殿の中にアリエルがいるんだ? ガブリエルとは既に婚儀を終えているはずなのに。
アリエルは、ガブリエルを思わせる優美な笑みを浮かべる。
それはやはり見ている者の頬を緩ませる力があった。
これもガブリエルの加護の影響なのか⁉
「これはこれはマティアス、清めを始める神殿に何用か?」
「清め……?」
「そう。神殿は使用の有無に関わらず、定期的な清めの儀式が行われる。神殿の隅々まで清め、神の力で満たす。そして最後にガブリエル様の手で、祭壇に主が祝福した白百合と赤い薔薇の花を飾る」
「な……こんな時間から行うのか⁉」
「ガブリエル様はお忙しい身。そして神殿の利用者は少ない。ガブリエル様の予定を優先してこの時間になったが、何か文句でもあるか?」
鈴を転がすような綺麗な声で、アリエルが尋ねた。
そのアリエルの後ろには、何人もの天使がいる。
もしアリエル一人であれば、俺たちへの嫌がらせと思えた。だがこれだけの天使がいるなら、予め組まれていた清めの儀式なのだろう……。
「……いや、文句などない。儀式が行われるなんて知らなかった。邪魔をするつもりはない」
そう答えると、ソフィアの手をとる。
「……帰ろう、ソフィア」
さすがにソフィアも事態を把握したようで、何も言わずに手をつなぐと、階段を降り始めた。
◇
階段を降りると、ソフィアは空を飛んで帰ることを提案した。
丁度夕焼けで空が茜色に染まり、美しかったからだ。
「マティアス様、いいお散歩になりました。帰ったら美味しい胡桃のパンを食べましょう。蜂蜜をつけていただくと美味しいそうですよ」
空を飛び始めると、ソフィアはそう言って落胆する俺を励ましてくれる。
「邪魔をされたわけではありません。あらかじめ決められた儀式なら、仕方ないですから」
「そうだな」
ソフィアが前向きなのに、いつまでも落ち込んでいるのは……。
その時だった。
前方から慌てた様子で飛んでくる二人の男天使がいた。
俺たちの上空を飛んでいく際、二人の会話がたまたま聞こえてくる。
「まったくこんな時間から清めの儀式なんて、ありえないな」
「本当に。しかも急に呼び出すなんて。いくら俺たちが騎士で『役割』がないと言っても、この時間は酒を飲み始める時間なのに」
ソフィアと俺は思わず立ち止まり、すごい勢いで去って行く男天使の後ろ姿を見送った。
「……ソフィア、今の話、聞いたか?」
「……はい。聞きました。清めの儀式は急遽決まったようですね……」
「つまり、俺とソフィアが神殿へ向かうと知って、邪魔したわけだな……」
「……そう、考えるのが妥当ですね」
二人してため息が漏れている。
徹底してガブリエルは、嫌がらせを続けるつもりなのだろうか?
大天使とは思えぬ仕打ちに、怒りが沸いてきたが……。
「マティアス様、諦めてはいけません。まだ試していない時間帯が沢山あるのですから」
ソフィアの前向きさに励まされる。
「そうだな。……胡桃のパンが楽しみだよ」
ソフィアがニッコリ笑顔を見せた。
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次回更新タイトルは「私ではない女性と出会っていたら」です。
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