ただ愛する人と結ばれたい
図書館に着くと、一階の本棚から、今日読む本を選ぶ。
毎朝会う女天使……エルサは、本棚に並べられた順に本を読んでいるようだった。だが俺はすべての本を読む気はさらさらなく、適当に目についた本を読むようにしていた。
『天使教則』
たまたま手についたその本をとり、目次を見ていると……。
「第五章 天界からの追放」
という章があり、さらに。
「一・天界から地上へ堕とされる事由」
つまり天界から地上へ堕とされる事例が載っているらしい。
『天使教則』を手に閲覧席に座り、該当するページを読み始める。
窃盗、傷害、放火などに加え、アクラシエルが言っていたとおり、既婚天使による不貞、不倫はもちろん婚姻前の男女の天使の交わりは禁止されており、違反すると翼と天使の力、記憶を奪われ、人間として地上へ堕とされるとなっていた。
ただ、天使と人間が恋に落ちた場合だけ、翼と天使の力を奪われるだけで、記憶は保持した状態で地上へ堕とされる。つまりただの人間となり、地上で想い人と結ばれることが可能となっていた。
そのことは知っていた。だが改めてこの本を読み、他の事案ではすべて記憶が剥奪される中、天使と人間が恋に落ちた場合だけ、記憶の保持を認めるのは……なんというかそこに主の慈悲があるように感じる。
ラファエルがただの人間として、地上へ堕とされていれば……。
ラファエルに好意を抱くアクラシエルは、天使としての力と翼を失うが、記憶を保持して人間となり、ラファエルの元に行くことができた。でもラファエルは記憶を保持し、復権の可能性を秘め、地上で人間となって修行をしている……。
アクラシエルの想いは、ラファエルが復権するまで、やはり叶うことはなさそうだった。
◇
『天使教則』を読み終えると、丁度昼休憩の時間になった。
この日、初めて6階と10階で読書を続けている二人の天使をアクラシエルから紹介され、一緒に食堂へ行くことになった。6階で読書を続けているのは、ニコラスというダークブロンドに明るい茶色の瞳の天使だ。口数も少なくとてもおとなしい青年だった。
十階で読書をしているのはパーカーという天使で、髪の色は金髪に灰色が混じったサンディブロンドで、ヘーゼル色の瞳をしている。話をふれば答えるが、自分から発言することはなく、こちらも落ち着いた感じの青年だ。
この二人とアクラシエルと四人で食事をして、昼寝となった。
ニコラスとパーカーに昼寝はどこでしているのかと聞くと、昼寝はせずに読書をしているという。二人ともかなりの本好きのようで、毎日本を借りて帰宅している。家に帰っても読書を続け、まさに読書三昧で過ごしているようだった。
俺は四十六階に行くと、定位置となっているカウチソファに横になる。
昨日は悪魔狩りで疲弊し、ソフィアの異変に困惑して、アクラシエルの一件で衝撃を受けた。さらに朝からアクラシエルと話し……。
つい先日まではガブリエルも現れず、与えられた『役割』をこなし、家に帰ればソフィアが待っていた。共に食事をし、夜空を散歩して仲良くベッドで休む、そんな穏やかな日々が繰り返された。
それが神殿で婚儀を挙げようとしただけでこの激変ぶり。
ただ愛する人と結ばれたいと願っているだけなのに……。
俺は大きくため息をつき、目を閉じた。
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