可愛さ余って憎さが百倍
天界の住居に鍵はない。
ドアを開け踏み込んでやってもよかったが、身についた習慣はそう簡単に変えられなかった。
ドアの前に立った俺はノックをし、アクラシエルがドアを開けるのを待つ。
……反応がない。まだ寝ているのか?
もう一度ノックした。
だがドアは開かない。
さらにノックし「アクラシエル」と声をかけた。
それでも反応がないので、いよいよドアを開けるかとノブを掴んだ瞬間。
アクラシエルがドアを開けた。
「マティアスさん……」
驚いた顔で俺を見上げるアクラシエルは、綺麗なストロベリーブロンド、琥珀色の美しい瞳で、ほんのりピンク色に染まった白い肌をしており、やはり女天使にしか見えない。
「話があるんだが」
怒りを含んだ声に、アクラシエルは瞳を伏せる。でも一歩後ろへ下がり……。
「どうぞ」
そう言って部屋の中へ入るように促した。
俺はそのまま部屋の中へ入った。
部屋は、俺とソフィアの部屋とそっくりだった。
置かれている家具も、カーテンの色さえ同じだ。
ダイニングテーブルを見ると、空になった皿と飲みかけのコーヒーが入ったカップが置かれている。
「その、物音がしましたが、マティアスさんが来ているとは思わなくて……。すぐに気が付けず、すみませんでした」
天界ではノックの習慣がないことに、改めて気づいた。
「いや、ドアは開いているのに入らなかった俺が悪い。それは気にするな。それよりも」
「分かっています。その、ソファに座りませんか?」
アクラシエルは、今にも泣き出しそうな顔をしている。しかもどう見ても女天使にしか見えない。
やりづらいな。
無言でソファに腰を下ろした。
「あ、コーヒー、良かったら」
アクラシエルがキッチンへ向かおうとする。
「いらないから座ってくれ」
思いがけず大声になり、アクラシエルが体を震わせる。
重い足取りでローテーブルを回り込み、俺の斜め横に置かれた一人掛けのソファに、アクラシエルは腰を下ろした。
その顔を見ると、視線は伏せられ、何かに堪えるように、唇が噛みしめられている。
「アクラシエル、俺がここに来た理由は分かっているよな? お前がラファエルの件で頭に来ているのは分かる。でもだからと言って、ソフィアに手を出すことが、許されることだと思うのか?」
「マティアスさん、ごめんなさい」
アクラシエルがソファから降り、床に座り込んだと思ったら、まるで伏せるようにして床に額をつけた。
これは……日本の土下座みたいだ。
「あの時はついカッとなってしまい……。ソフィアさんに対しては、少なからず好意を持っていました。ラファエル様がいなくなり、寂し思いをしている時に見かけたソフィアさんは……。本当に美しく、でも寂しそうな顔をしていて、放っておくことができませんでした。可憐で可愛らしく、まるでラファエル様の女性の側面を見ているようで……。だからソフィアさんが、ラファエル様の地上へ堕ちるきっかけを作ったと知り、可愛さ余って憎さが百倍という気持ちになってしまいました」
そこでアクラシエルが顔を上げた。
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次回更新タイトルは「でもソフィアさんには感謝しているんです」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も学校、お仕事、頑張りましょう‼




