優しくキスをした
いつもと変わらぬ朝がやってきた。
カーテンを閉じているが、遮光ではないので、朝陽と共に部屋の中は明るくなる。
自然と日の出と同時に目が覚める。
まだ眠るソフィアのおでこに優しくキスをした。
ソフィアが目覚める気配はない。
ゆっくり体を起こし、ベッドから降りた。
キッチンに行くとそこにはぶどうパン、イチジクパン、ブルーベリーパンなど何種類かのパンがあった。
野菜スープを作り、フルールをカットし、パンを焼いて朝食を準備する。
「ソフィア、朝食の用意ができたよ」
カーテンを開けながら、窓に背を向け、掛布団にくるまるように眠るソフィアに、声をかけた。
「……マティアス様」
ゆっくりとソフィアが目を開ける。
「まだ眠いか? 今日は休むか?」
声をかけながらソフィアの元へ向かった。
「起きます」と答え、ソフィアは俺のキトンを遠慮がちに掴んだ。
「……?」
甘えるような瞳で、ソフィアが見上げている。
「昨晩、うっかり眠ってしまいました……」
「ああ、それなら気にしなくていい。疲れていたのだろう?」
ソフィアの頭を優しく撫でる。
俺の手を両手で掴むと、ソフィアは指にキスをした。
「……沢山のキスをもらいそびれてしまいました」
「……!」
そんなことを言われたら、キスをしたくなって当然だ。
ベッドに腰掛けると、ソフィアの顔のパーツに順番にキスをする。
おでこ、瞼、鼻、頬、そして唇。
本当はもっとしたかったが……。
このままキスを続けたら……ソフィアの『役割』には間に合わなくなる。
だからソフィアの耳元で囁いた。
「今日はソフィアが終わる時間に迎えに行くから。理由をつけて早退する。続きはその後だ」
「マティアス様」
ソフィアが嬉しそうに微笑む。
その笑顔を見た瞬間、そのままソフィアを押し倒しそうになった。
でもその衝動をなんとか飲み込み、抱き上げると、ダイニングテーブルの椅子まで運ぶ。
「美味しそうな野菜スープですね。……マティアス様こそ疲れているのに、朝からありがとうございます」
「いつも通り目覚めたから気にする必要はない。さあ、食事をしよう」
「はい」
太陽のように明るいソフィアの笑顔を見ながら朝食を摂った。
◇
ソフィアをホワイト・ベーカリーまで見送り、そこで初めて店で働く天使たちと顔をあわせた。皆、俺とソフィアが神殿から直行でここに来たと思ったようで、次々と祝福の言葉をかけてくれる。
「実は、直前に『役割』を頼まれ、神殿には行けなかったんです」
ソフィアがそう話すと、皆、一様に驚いた顔をする。
特に既婚者だという天使は、こんなことを教えてくれた。
「神殿に行く日は当然『役割』を休んでいるから、うっかり誰かから『役割』を与えられることもある。そんな時に断れるよう、天界役場に行けば、『神殿使用者特例措置証明書』を発行してもらえるよ」
それを教えてくれた既婚者の天使にお礼を言い、証明書を今日もらって家に帰ろうと、心に誓う。
「ソフィア、終わり時間に迎えに行くから」
「はい、マティアス様。でも無理はなさらないでくださいね。もし時間にマティアス様がいらっしゃらなければ、私は天界役場に行って、先ほどの証明書のことを聞いてみますから」
「分かった」
ソフィアを抱きしめると、既婚者の天使は「初々しいね」と頬を赤くし、そうではない天使はただただニコニコと俺たちを見ていた。
未婚の天使はやはり恋愛感情とは無縁のようで、俺とソフィアの熱い抱擁も、ただのハグに映っているようだ。
店の外に出ると、通りを挟んで向かいに立つ建物を見上げる。
あの二階にアクラシエルが、ラファエルの夫である天使がいる。
通りを横断し、アクラシエルの部屋に向かった。
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次回更新タイトルは「可愛さ余って憎さが百倍」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も学校、お仕事、頑張りましょう‼




