違うと首を振ってほしい
「何があった? まさか暴力を振るわれたりしたのか⁉」
ソフィアは違うというように力なく首を振り、そして。
またもや涙がこぼれ落ちた。
「ソフィア……」
ここまでソフィアが泣くなんて、初めてのことだ。
静かに抱きしめ、ソフィアが落ち着くのを待った。
空を見上げると。
美しい星空が広がっている。
天界はこんなにも美しいのに……。
ただこの美しい世界で、愛する人と穏やかに過ごしたいだけだ。
なぜそれが許されないのか。
静かに時間が流れる。
「ソフィア、落ち着いたか?」
ゆっくり頷いたのが分かった。
「もう無理に話す必要はない。ソフィアが話したいと思った時でいいから。だから家に帰ろう」
俯いたままソフィアが、小声で何かを言った。
聞き取れず、ソフィアに顔を近づける。
「ソフィア、何だ?」
「……家に帰るのが怖いんです」
「……家に帰るのが怖い……?」
オウム返しに聞いた後、慌てて尋ねる。
「ソフィア、この場所には何時からいるんだ? いや何時間?」
「19時過ぎからでしょうか……」
「5時間近く一人でずっとここに?」
ソフィアは頷いた。
家に帰るのが怖い。
家で何があった?
アクラシエルが家に来て、二人は会話をしていた。
その会話は思いがけない方向に行き、アクラシエルは裏切られた気持ちになった。
ひどいことを言われたわけではない。
暴力をふるわれたわけではない。
では何があった、家で……?
まさか。
どのような思考回路でそうなるのかは理解できない。
でもソフィアのことを、ラファエルの女性の側面と似ていると、アクラシエルは言っていた……。
「ソフィア、アクラシエルに無理矢理何かされそうになったのか?」
ノーと答えてほしい。違うと首を振ってほしい。
そう思いながら尋ねた。
だが……。
ソフィアは固まっていた。
心音が激しくなっていく。
怒りが体の内側から沸々わいてくる。
「……ソフィア」
それ以上は言葉にならなかった。
頭の中に浮かんだのは……。
アクラシエルを許さない。
無言でソフィアから離れると、すぐそばの小屋へ向かった。
そこには武器が格納されている。悪魔狩りから帰還した天使から回収した武器だ。
何でもいい。剣でも弓でも槍でも。
目についた槍を掴んだ。
「マティアス様、どうされたのですか⁉」
ソフィアが驚いて俺の腕を両手でつかんだ。
「アクラシエルを許せない」
それだけ言うと槍を手に歩き出す。
「待ってください! マティアス様、そんなこと絶対ダメです!」
ソフィアが俺を止めようと、槍を持つ腕にすがりついた。
「止めるな、ソフィア」
「マティアス様、本当に、ほんの一瞬だけでしたから」
その言葉に俺の動きは止まった。
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次回更新タイトルは「私は穢れてしまいましたか?」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も学校、お仕事、頑張りましょう‼




