裏切られた気分
「違うんです。アクラシエルさんはラファエルの夫です」
「何……? ラファエルの……夫?」
俺の頭は混乱していた。
「はい。ラファエルには二面性があり、男女それぞれの天使との婚姻が認められていて……」
「いや、ソフィア、それは俺も知っている。既に婚姻関係にある男の天使がいることも。でもアクラシエルは女性だろう?」
「違います。男性の天使です」
「……!」
衝撃で言葉を失う。
「アクラシエルさんはラファエルのことを心から愛していました。だから自分以外の天使と婚姻関係を持つことを、ラファエルにしないで欲しいと思っていたそうです。元々アクラシエルさんは中性的だったので、それをいかし、女性の天使の前では男性らしく、男性の天使の前では女性のようにふるまうようにしました。
するとアクラシエルさんは相手の性別にあわせ、自分の性別を変えられるようになったそうです。変わるといっても肉体は変わっていません。醸し出す雰囲気とかオーラを変えることができるようになったと、本人が言っていました」
「そうだったのか。……俺はてっきり女天使だと思っていた……」
未だ信じられず、驚きを隠せない。
「そう見えるようにアクラシエルさんがしていたので、マティアス様が女性の天使だと思っていても仕方なかったと思います。……アクラシエルさんは、ラファエルと過ごす時、ラファエルが女性の側面を見せれば、男性の天使としてラファエルのことを愛しました。ラファエルが男性としての姿を見せれば、女性の天使のようにラファエルの愛を受け入れていました。ラファエルにあわせ、アクラシエルさんは男性の天使、女性の天使を演じ分けていたのです。だから長らくラファエルは女性の天使と婚姻関係を結ぶことがなかったのです」
アクラシエルは一人で男女を使い分け、ラファエルの二面性を受け入れていた。
それはそれでかなりセンセーショナルだった。
「……なるほど」
そう応じることしかできない。
「それなのに突然、女性の天使を迎えることになった、と聞いて、アクラシエルさんはひどく困惑したそうです。それでもラファエルから説得され、断腸の想いで受け入れ……。
ところが相手の女性はラファエルを拒み、しかも他に好きな相手がいた。さらに不慮の事故が起き、ラファエルの放った天使の力で、その女性が好きだという相手は命を落としてしまった。その結果、女性の天使を迎える話はなくなりました。
しかしラファエルは地上へ堕とされ……。それはアクラシエルさんにとって、大変ショックな出来事でした。でもまさかラファエルが迎えようとしていたのが、私だとは思ってもいませんでした。マティアス様がラファエルの天使の力を受けた人物だとは知りませんでした。
……だからアクラシエルさんは、私とマティアス様に親切にしてくれたし、それどころか好感さえ覚えていたそうです」
「なるほど……。変な話だが、アクラシエルから度々、俺はラファエルの男性の側面に似ていると言われた……」
するとソフィアがハッとした表情で俺を見る。
「私もラファエルの女性の側面と似ていると言われました。可憐で可愛らしいところがとても似ている、と……」
「アクラシエルには申し訳ないが、それは少し気味が悪いな。まるで俺とソフィアを、ラファエルの代わりのように見ているみたいだ」
思わず大きくため息が出た。
「……突然ラファエルと離れ離れになり、寂しかったのかもしれませんね……。ラファエルが地上に堕とされる前は、一緒に暮らしていたそうなので」
「そうだったとしても、そんな色目を使うものか? ……まあ、ソフィアと俺にとっては、あまり心地いいことではないが、アクラシエルは俺たちに好意を感じていた。でもソフィアからラファエルの話を聞いて、俺達が何者であるか理解した。その瞬間にアクラシエルは裏切られた気分になったんじゃないか?」
「はい……」
ソフィアの表情が一気に曇る。
「どうした、ソフィア? なにかアクラシエルにひどいことを言われたのか?」
俺の問いに答えず、ただソフィアの瞳が潤んできていた。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
この投稿を新たに見つけていただけた方も、ありがとうございます!
次回更新タイトルは「違うと首を振ってほしい」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も学校、お仕事、頑張りましょう‼




