瞳から溢れた涙がとめどなく流れ落ちた
「悪魔狩り、お疲れ様でございました。これより地上の穢れと悪魔の不浄を落とします」
前回同様、天界に着くと、女天使が現れた。
俺から弓と矢筒を受け取り、腰の剣を外し、別の女天使に渡す。そしてそのまま腰ひもをはずし、肩の留め具を外した。
あまりにも疲れていたということと、一度同じことをされていたから、もう動揺もしない。
女天使も表情を変えず、俺の両肩を掴み、ぐっと押した。崩れるように、柔らかい芝の上に両膝をつく。女天使は俺の上半身をふわりと抱きしめ、彼女が放つ光に全身が包まれた。
鉛のように重くなっていた体が瞬時に軽くなる。
疲弊していた心が軽やかになっていく。
女天使は俺の両手を掴み立ち上がらせると、手早く新しいキトンを着せた。
「穏やかな休息を」
女天使は俺を残し、去って行く。
どうやら俺が今日最後に帰還したようだ。
街の方へ歩き出してすぐ、天使を見つけた。
回収した武器が格納されている小屋のそばで、立ちすくんでいる。
フード付きのマントを被り、俯いているその姿は……。
「ソフィア……?」
俺の言葉にその天使の体が揺れた。
ソフィアだ。
「ソフィア」
そう言って駆け寄ろうとすると、ソフィアが駆け出す。
「……?」
困惑しながらソフィアを追いかけた。
ソフィアが全力で走ろうと、それは所詮、女性の脚。
すぐに追いつき、後ろから抱きしめた。
「ソフィア、どうしたんだ⁉」
いやいやをするように、ソフィアは俺の腕の中で顔を伏せたまま身をよじる。
「ソフィア⁉」
あまりにも激しく動くので、フードが頭から落ちた。
銀色の月明りがソフィアの顔を照らす。
すぐに顔を伏せたが、ソフィアの顔には……涙の痕が残っていた。
俺のことを心配して……。
そう思ったがすぐに疑問が沸く。
心配してこぼした涙なら、なぜ俺を見て逃げるように駆け出した?
「ソフィア、説明してくれ。突然こんな態度をとられても、俺には何が何だか分からない」
するとソフィアは、意を決した表情で顔を上げる。
だが、視線をあわせると、瞳から涙が零れ落ちた。
「どうしたんだ、ソフィア」
堪らず、両手でソフィアの頬を包んだ。
手にソフィアの涙が触れる。
涙が次々と溢れる瞳と、しばらくの間見つめ合うことになった。
その瞳からは不安、悲しみ、困惑が感じられる。
何があった……?
胸が詰まり、俺も辛い気持ちになっていた。
苦悩に満ちた俺の表情に、ついにソフィアが口を開く。
「……マティアス様が悪魔狩りに行かれた後、私はずっと家にいました。夜になり、明かりをつけて夕ご飯を食べていたら……アクラシエルさんがきたんです……。神殿にいたはずなのに、どうして家にいるのかと聞かれ……。私はガブリエルのことを話したんです。
するとアクラシエルさんは、どうしてガブリエルはマティアス様に執着するのかと聞きました。だから私はラファエルのことを話したんです。ラファエルが無理矢理私を天界に迎えようとして、マティアス様がそれを止めようとしたことを。その結果、ラファエルが地上へ堕とされ、大天使が減ったことで、ガブリエルはマティアス様を恨んでいるということを。そうしたら……」
瞳から、溢れた涙がとめどなく流れ落ちる。
「落ち着け、ソフィア。ラファエルのことを話したら、何があったんだ?」
しばらく涙をこぼし、深呼吸をすると……。
「アクラシエルさんは私に言いました。とても冷たい声で。あなたのせいでラファエル様は地上へ堕とされ、人間として修業させられることになったのですね、と」
「……そうか。確かにアクラシエルは大天使たちを羨望の目で見ていた。千年以上天界にいるんだ。大天使を崇拝する気持ちがあったのだろう」
するとソフィアは首を振った。
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次回更新タイトルは「裏切られた気分」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も学校、お仕事、頑張りましょう‼




