ソフィアのことを想い……
悪魔はその習性として闇を好む。
だから地上にいる悪魔の多くが夜間に活動する。
昼間でも活動できないわけではないが、夜の方が本領発揮となる。
だから……。
早朝と言われる時間帯の悪魔は、寝ている者が多かった。
「マティアス、この建物一棟が悪魔の根城だ。酒、薬、女、男、子供を、夜になると同胞や人間に提供している。まさに悪の巣窟だ。始末してくれ」
それはハンガリーの首都ブダベストの9区と10区の境目にある、古びた建物だった。
早朝のこの時間、外をうろつく人間はまばらだ。
「これを」
アリエルは弓矢、剣に加え、鞭を渡した。
鞭……と言えばウリエル……エウリールのことを思い出す。
「さあ、震えあがりなさい、悪魔どもよ。わたくしは大天使ウリエル、一度の鞭で千の悪魔を討ち取る者ぞ」
主の力が込められた鞭はただの鞭ではない。大天使が振るう鞭ほどとはいかないが、俺が一度振るうだけでも、何体もの悪魔の体を引き裂くはずだ。
「マティアス、行かないのか? 怖気づいたか?」
ガブリエルが冷ややかな瞳で、俺を見る。
今日もまた俺一人に、悪魔を狩らせるつもりか。
小さくため息をつくと、俺は建物の中へ入っていった。
◇
早朝から動いたのだから、前回のように深夜にまで及ぶことはないのでは……という考えは甘かった。
魔界と天界の戦に直接関わっていないような、大昔から地上へ潜んでいるような悪魔も含め、ガブリエルは俺に狩るように指示した。しかも多くが寝込みを襲われる形で命を落としていく。まだ子供の悪魔を狩ることを躊躇い、見なかったことにして去ろうとしたが、俺がその場を離れた瞬間、アリエルが矢を放った。
ガブリエルもアリエルも、悪魔に対して容赦ない。
その様子はまるで、戦場にいる時と変わらない。
一日かけて、ブダペスト中の悪魔を狩った気がした。
「あの鞭を与えてもこの程度か。やはりウリエルがいないのは痛手だ」
「まさか、この鞭はウリエルのものなのか?」
俺の言葉にガブリエルは答えず、アリエルが俺の手から鞭を取り上げた。
「アリエル、帰ろう」
ガブリエルが美しい声でアリエルに囁き、二人は純白の翼を広げる。
心身が共に疲弊していた俺は、翼を広げるのさえ億劫だった。
……天界に戻りたくない。
このまま地上のどこかへ身を隠してしまえば……。
一瞬そんなことも考えた。
だが。
天界でソフィアが待っている。
早朝から悪魔狩りに出たのに、まだ帰ってこない俺を心配しながら待っているはずだ。
帰らないと。
ソフィアのことを想い、翼を広げた。
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次回更新タイトルは「瞳から溢れた涙がとめどなく流れ落ちた」です。
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