扉の前に二人で立った
「丸一日家を開けるのに、ドアに鍵をかけないというのは……戻ってきたら部屋に別の天使が住んでいた……なんてことないよな……」
「さすがにここは天界ですから、それはないでしょう。性善説で成立している世界なので」
ソフィアがクスクスと笑った。
「まあそうだな。それで空から行くか? 歩いて行くか?」
「そうですね。こんな朝の早い時間、空を飛んだことはないので……」
「よし。では空から行こう」
お互いに翼を出し、手をつないで空へ羽ばたいた。
太陽はじわじわと上昇しているが、まだ夜明けという時間だ。
朝靄が広がり、それは雲海のようだった。そこに太陽の光が降り注ぎ、絶景を作りだしている。
丘には蛍のような光を放つ精霊の姿はなく、代わりに露がついた草に朝陽があたり、キラキラと輝いていた。
神殿が見えてくる。
「少し手前で、階段の下で降りようか」
ソフィアは頷き、二人で高度を下げた。
静かにつま先から大地に着地し、翼をしまう。
改めて深呼吸をしてからソフィアを見た。
「行こうか、ソフィア」
ソフィアの手を取り、階段をゆっくり登る。
前回はこの階段を登り切ったところで、ガブリエルに声をかけられた。
奴は神殿の屋根にいた。
チラリと屋根を見るが、そこには誰もいない。
大丈夫だ。
ソフィアの手を握る手に、思わず力がこもる。
一瞬ソフィアが俺を見たが、屋根を見ていたのだと理解し、苦笑していた。
そして。
ついに最後の一段だった。
扉の前に二人で立った。
「開けるよ、ソフィア」
「マティアス」
俺の声に被せるように聞こえてきた美しい声……。
声が聞こえてきた後方を振り返る。
そこには朝陽を浴び、全身を輝かせたガブリエルとアリエルがいた。
……どうして。
言葉にならない。
「マティアス、『役割』はどうした?」
「今日、マティアス様は『役割』をお休みしているんです。ここで婚儀を挙げるために」
俺の代わりにソフィアが答えていた。
「『役割』を休む……。つまり今日はフリーということだね」
ガブリエルが微笑を浮かべる。
ソフィアはその笑顔につられ、一瞬頬が緩んだがすぐに引き締めた。
「フリーではありません。この神殿で私と婚儀を挙げるんです!」
「それは困った。これから悪魔狩りに行かないといけないのに。一人足りないんだよ……ソフィア」
ガブリエルが優雅にソフィアを見る。
「それは困りましたね。では『天界軍騎士総本部』に行かれてはいかがですか?」
ソフィアは……信じられない強さでガブリエルと渡り合っていた。
「君は……ただ守られるだけの美しい女性の天使というわけではないようだ。ラファエルが君を気に入った理由が分かった気がするよ」
ガブリエルはそう言うと、こう畳みかけた。
「残念だが『天界軍騎士総本部』はまだ開いていない。どうだろう、ソフィア。君が来てくれれば助かるのだが」
「ガブリエル!」
俺の大声にガブリエルとアリエルが一瞬ひるんだ。
ソフィアは驚いて息を飲んでいる。
「すぐに返事をしなくて済まなかった。悪魔狩りは俺が行こう」
絶対にソフィアを悪魔狩りに行かせてはならない。
ソフィアは一度も戦場に出たことがない。武器なんて扱えない。
ガブリエルは地上の悪魔の群れの中に、ソフィアを置き去りにするに違いない。
そんなことになればソフィアは……。
悪魔たちの餌食になってしまう。
それだけはなんとしても避けないといけない。
「すまないが家で待っていてくれ」
ソフィアの手をぎゅっと握り、ゆっくり離すと、ガブリエルとアリエルの元へ向かった。
「マティアス、君が来てくれると助かるよ」
ガブリエルがことさらに美しい笑みを浮かべる。
その笑みを見ないように視線を逸らし「そうか」とだけ返事をした。
「では行こうか」
ガブリエルはアリエルを促し、翼を広げる。
先に飛び立った二人の後に続くため、翼を広げた。
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次回更新タイトルは「ソフィアのことを想い……」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も学校、お仕事、頑張りましょう‼




