あともう少しで結ばれる
「ともかくですね、神殿ではいろいろありますから、あまり食べ過ぎると、そのお腹もぽっこりしてしまってかっこ悪いとアドバイスをいただいたのです」
一体なんのアドバイスをされたんだ? まさか男女の秘め事についてか?
でもまあ、それはそれで助かる。
なにせソフィアはその辺りの知識があると思えないからだ。
いざその時になって「何をなさるんですか、マティアス様!」などと言われてはたまらない。
しかし、お腹がぽっこり……。
「……ソフィア、お腹が出ているのか? 一度もソフィアのお腹が出ているなんて思ったことないが……」
実際ソフィアは魔界でも地上でも、ウエストが細いと感じられるドレスやスカートを履いていた。
……天界にきてからパンの食べ過ぎで太ったのか……?
チラリとソフィアのお腹の辺りを見た。
「マティアス様、見ないでください」
慌てて視線を逸らす。
「それでマティアス様はアクラシエルさんから何を言われたのですか?」
「……!」
それはあまり言わないでおきたいことだったのだが……。
ソフィアは頬を赤らめながらも、ホワイト・ベーカリーでのことを話してくれた。
だからアクラシエルから言われた通りをソフィアに伝えた。
つまり、「神殿の扉が開くのは24時間後ですから、無理して明後日、『役割』を果たさなくていいですからね。マティアスさん、体力もありそうですし、大丈夫と思いますけど……。腰痛になっているかもしれないですから……」と言われたと。
「腰痛……?」
ソフィアは眉をひそめる。
「もしかして神殿のベッドは質が悪いのでしょうか? この部屋のベッドはとても寝心地がいいのに……。腰痛になる原因はマットレスが柔らかすぎる場合、硬すぎる場合、その両方が考えられます。体が沈み込み過ぎても背中や腰が圧迫されてしまい……」
真剣な表情で、マットレスが引き起こす腰痛について説明するソフィアを見て、少し不安になっていた。
あの神殿で婚儀を挙げた後に行われる生涯の契りについて、ソフィアはどの程度の知識を持っているのだろうか……。今日、そのことをアドバイスされたのではないのか?
不安は残ったが、明日は朝五時起きで、準備が出来次第神殿へ向かうつもりだった。
ソフィアのホワイト・ベーカリーは朝7時から『役割』がスタートで、神殿の扉は一度閉じると開くのは24時間後。
明後日の『役割』へ向かう時間を考えると、明日は早朝から神殿へ向かう必要があったのだ。だから今日は、夜空の散歩もなしで早寝するつもりだった。
ソフィアのマットレス談義に適当に相槌を打ち、夕食を終えると、寝るための準備をすすめた。
◇
天界にきてから寝る前は、ソフィアに甘えるのが恒例だった。
だが昨晩は軽くハグをしただけで眠りについた。
眠れるのか、と思ったが、神殿での婚儀のためと心を無にしたら、きちんと眠りにつくことができた。
カーテンの外側に広がる世界は、明るくなりつつあった。
ついに、朝を迎えた。
自然と目が覚めてしまったが、ソフィアはまだ眠っている。
綺麗に整えられた眉毛の下には、静かに閉じられた瞼があり、睫毛はなだらかカーブを描いていた。頬はうっすらとローズピンク色に染まり、形のいい唇は柔らかさを感じさせるパールピンク。
可愛らしい寝顔は、何時間でも眺めていることができそうだったが……。
「ソフィア」
もう数えきれないほど繰り返し呼んでいる名前を、耳元で囁いた。
ゆっくりと閉じられた瞼が動き、澄んだ湖のような碧い瞳が俺をとらえる。
「……マティアス様」
ゆっくりソフィアの体を抱きしめ「おはよう」と朝になったことを伝える。
ソフィアは俺の胸に顔を摺り寄せながら「おはようございます」と小さく答える。
「もう起きられるか?」
「はい」
その返事を聞いた瞬間、胸が高鳴った。
あともう少しでソフィアと結ばれる。
その時が待ち遠しかった。
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次回更新タイトルは「扉の前に二人で立った」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も学校、お仕事、頑張りましょう‼




