アドバイス?
晩御飯はパンはなしでサラダとフルーツというあっさりとしたものだった。
食欲はないのでそれで足りなというわけではないが、いつも嬉しそうにホワイト・ベーカリーでもらったパンで夕食を用意していたので、不思議に感じる。
「……今日はパンが売り切れだったのか?」
何気なく聞いたつもりだったが、ソフィアは突然頬をバラ色に染めた。
……何か変なこと言ったか?
「マ、マティアス様は図書館で明日、『役割』をお休みして神殿に行くことを話して、皆さんから何か言われましたか⁉」
ソフィアが突然テーブルに両手をついて立ち上がった。
「いや、特には……。そもそも図書館には『役割』を担う天使が常時五人いるらしいんだが、俺はアクラシエルとエルサという女天使しか見たことがない。エルサという女天使は別に俺のことを嫌いというわけではないと思うが、挨拶ぐらいしか会話をしたことがない。だから『役割』を休むことについては、アクラシエルに伝えたぐらいだ。アクラシエルは快諾し、特には……」
そこでさっきアクラシエルに言われたことを思い出し、思わず黙り込む。
「マティアス様も何か言われたのですね」
「何か言われたって……うん? ソフィアはホワイト・ベーカリーの天使たちに何か言われたのか?」
「それは……」
ソフィアは再び頬を赤くして、椅子に座った。
「別に無理して話す必要はない」
ソフィアは少し困った顔をしたが、ゆっくり話し出す。
「朝、お店に行って、お休みの件を話そうとしたのですが……」
「どうした? 話せなかったのか?」
ソフィアは首を振る。
「ホワイト・ベーカリーにはパンとケーキを作る職人の天使が五人いて、店番は三人なんですが、そのうち四人が既婚者なのです」
「そうなのか⁉ 神殿は閑古鳥が鳴いているんじゃないのか⁉」
思わず紅茶の入ったマグカップを、勢いよくテーブルに置いてしまった。
「私も神殿の利用者は滅多にいないと聞いています。でも天界では天使軍にでも従軍しない限り命を落とすことはないですから……。その長い歴史の中で誕生した二組のカップルが、たまたまホワイト・ベーカリーで『役割』を担っていた、ということなんです」
「なるほど。四人の既婚者……二組のカップルなんだな」
納得して紅茶を飲む。
「あ、はい。そうなんです。ややこしい言い方ですみません」
「気にするな、ソフィア。それで?」
「はい。その二組のカップルが私の指輪にすぐ気づいたんです」
「なるほど」
天使はいろいろな欲求が薄かったが、自身を着飾るということにも無関心だ。
だからこそ服もキトンしかないわけで……。
宝飾品のたぐいを身に着けている天使を見かけたことがない。それでも洋服屋の一角で宝飾品を扱っているのは、婚儀を挙げる天使のためだった。
つまり、婚儀を挙げた天使が晴れてカップルとなってから指輪を手に入れ身に着ける、それぐらいしか宝飾品の用途はなかった。
「もしかして彼らに、神殿で婚儀を挙げるつもりなのかと聞かれたのか?」
ソフィアは静かに頷く。
「それでその、先輩としていろいろアドバイスをくださったというか……」
頬がバラ色に染まり、語尾は声が小さくなっていた。
「アドバイスをくれたのか。それは良かったじゃないか。神殿の利用なんて初めてなのだから」
「そ、それはそうなんですが、神殿の利用についてのアドバイスというか……」
「?」
ソフィアはコホンと咳払いをした。
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次回更新タイトルは「あともう少しで結ばれる」です。
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