天界での日常
午前中で美術館での鑑賞を終え、四十一階の博物館の展示を見終わったところで、昼休憩となった。
博物館の展示物は元魔王として気になる物が多く、思いのほかじっくり見てしまった。
四十一階に展示されていたのは、天使軍が使う武器だ。
大まかな分類は、剣、弓、槍、鞭。
それぞれの武器にランクがあり、威力が違うことも初めて知る。
例えば漠然と大天使の放つ矢は一撃必殺と認識していたが、それは大天使が放つ矢だからというわけではなく、矢自体に主がどれだけの力を込めたかで威力が変わっていた。
つまり大天使は、主の込めた力が強い矢を使うことで、放つ矢が一撃必殺になっていたのだ。
主の力が込められるほど、矢は重くなる。
そうなると並の天使ではその矢が扱えない。
結局、主の力が多く込められた矢は大天使しか扱えなく、その結果、一撃必殺の矢は大天使が放つもの、ということになっていたのだ。
そんな感じの情報が盛りだくさんだったので、博物館は絵画よりも熱を込めて展示物を見ることができた。
昼休憩は、昨日同様アクラシエルと天界役場の食堂に向かった。昨日と同じで、席につけばアクラシエルに声をかける天使が沢山いて、休憩時間は賑やかになる。
そして昼寝は博物館のエリア、最上階の四十六階でとるために移動した。
昨日と同じカウチソファに横になり、窓の外の景色を眺めると眠りが訪れる。
心地よい眠りは……またしても俺の腕の中で眠るアクラシエルの気配で破られた。
頬をほんのりピンク色に染め、はにかんだように笑うと「やはりマティアスさんの腕の中だと、短時間でも熟睡できます」と言われる。昼寝は一人でしてくれ、と言うべきか、些細なことと受け流すか、悩ましかった。
午後は引き続き博物館の展示を見て過ごし、定刻で図書館を出て帰宅した。
帰宅するとソフィアは、晩御飯を準備して待っている。
新鮮な野菜をサンドした昨晩とはうってかわり、今日はソテーしたきのこ、炒めた玉ねぎ、温野菜などをサンドしたパンを用意してくれていた。
夕ご飯の後は夜空の散歩、入浴を済ませた後は眠るまでのひと時をソフィアと過ごし……。
穏やかに一日が終わった。
翌日も同じように朝、目覚め、食事をし、ソフィアを見送り、アクラシエルと図書館に向かった。ガブリエルが現れた場所で警戒し、何も起こらないことに安堵して図書館へ向かう。
博物館の展示を午前中に見終えて、食堂に行き、昼寝をする。
アクラシエルは変わらず俺の腕の中に潜りこみ、午後は沢山の蔵書が並ぶ一階へ移動した。定刻になり帰宅してソフィアの手料理を食べ、この日は夜空を散歩した後、丘の道を散策した。帰宅後は入浴を済ませ、ベッドでソフィアとの甘い時間を過ごして眠りにつく……。
◇
翌日も、その翌日も、ガブリエルは現れず、気づけばガブリエルが現れてから一週間が経とうとしていた。
アクラシエルとは毎朝顔を合わせている。昼休憩は食事も、(不本意であるが)昼寝も共に過ごしているが、これと言った変化はない。
ただ毎日が平和に過ぎていた。
ガブリエルだって暇ではないはずだ。何しろ四人いたはずの大天使が二人になってしまったのだから。それにいくら俺が憎いと言っても、俺はもう魔王ではなく、一天使に過ぎない。
そんな俺の相手をして時間を無駄にしては、主だって呆れるだろう。
だから……。
「ソフィア、明後日、神殿へ行こう」
夜空の散歩では、水平飛行から垂直飛行に変更する場所が、俺とソフィアの中で出来上がっていた。だから垂直飛行に切り替えたまさにその瞬間に、ソフィアへ神殿に行くことを切り出した。
この話をここで聞くとは予想もしていなかったのだろう。
ソフィアは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに頬をバラ色にして、俺の心を溶かす笑顔で応えた。
「明後日ですね、マティアス様。分かりました」
ノーとソフィアが言うはずがないと分かっていても、この返事を聞けるまでは落ち着かない。イエスの返事をもらえた俺は、安堵しながら用意していたものを取り出した。そして魔王一族のしきたりに従い、ソフィアの前で片膝をつき、跪いた。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
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次回更新タイトルは「お互いを意識し過ぎて……」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
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