元魔王とは思えない動揺ぶり
「ど、どうした、ソフィア」
我ながら思う。
元魔王とは思えない動揺ぶりだと。
ソフィアは俺の胸のあたりのキトンをきゅっと掴み、囁いた。
「マティアス様、神殿にはいつ行くのですか?」
「……!」
「……マティアス様が私に触れる度に……私も本当は切ないんです。気持ちは同じなのに、マティアス様を止めないといけないのは……」
そんな風にソフィアが考えているとは……。
まるで悪戯っ子をなだめるような態度だから、半ば呆れられていると思っていたのに。
堪らず抱きしめキスをしていた。
「……今朝、図書館に向かう途中にガブリエルが現れたんだ」
「そうなのですか⁉」
ソフィアが驚いて顔を上げた。
「でも俺に『役割』があると分かると、あっさり引き下がった」
「……! やっぱりそうなのですね。『役割』があれば大天使は命令できない」
「ただ、俺に『役割』を与えたアクラシエルに対して、冷たい一瞥をガブリエルが与えていた。だから、少し心配なんだ。神殿へ行くには『役割』を休むことになる。アクラシエルが一人の時に、ガブリエルが変なことをしないかと。だからしばらくは普通に『役割』をこなし、大丈夫そうだったら、神殿に行きたいと思っている」
この考えを聞くと、ソフィアは優しく微笑んだ。
「マティアス様らしい判断と思います。私もその考えに同意です。アクラシエルさんにはとてもお世話になっています。ガブリエルが何かするのを見過ごすわけにはいきません」
「そうか。ソフィアがそう言ってくれると安心だよ」
思わず安堵のため息が漏れた。
「では神殿に行くまでは我慢ですよ、マティアス様」
「……」
それは……よく分かっている。
分かってはいるのだが……。
「マティアス様なら大丈夫です。なにせ千年も禁欲できたのですから。普通はそんなことできません。さすがマティアス様です!」
「いや、待ってくれ、ソフィア」
ソフィアはキョトンとした顔で俺を見る。
天使になってから、ソフィアの純粋無垢さに磨きがかかった気がする。
「千年も誓いを守ったんだ。だから逆にもう、俺もそろそろ限界なんだよ、ソフィア……」
「マティアス様……」
息を飲んだソフィアは考え込んでいた。
「お辛い気持ち、分かります……。私で何かできることはありますか?」
真顔でこんなことを言われたら堪らないな……。
「ああ、あるよ、ソフィア」
短く答えると、顎を指で持ち上げ、パールピンク色の唇を塞いだ。
キトンをきゅと握るソフィアの手を握りしめ、キスを続ける。
ソフィアから甘い吐息が漏れたところで、俺はキスを止めた。
「こうやってガス抜きさせてくれれば、しばらくは大丈夫だ」
本当は大丈夫ではなかった。でもこれで我慢するしかない。
息を弾ませたままソフィアは「分かりました」と神妙な面持ちで律儀に頷く。
その様子がいちいち可愛らしく、俺の中の熱は収まりそうになかった。
だが無理矢理、その熱に蓋をする。
「明日も『役割』がある。休もう」と。
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次回更新タイトルは「心ここに在らず」です。
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