夕食よりソフィアを食べたい
午後は不本意ではあったが、ガブリエルの絵画から見ることになった。
俺に対しては一貫して冷徹な態度と言葉で接してくるガブリエルだが、絵画で見る奴の姿は……悔しいぐらい優美で清らかな姿をしている。
ウリエルのようなワイルドさではなく、ラファエルのような中性的な感じでもなく、ガブリエルはとにかく美しかった。
特に笑顔を描いた絵を見ると……自然と俺の頬も緩んでしまう。
ガブリエルのフロアが終わろうかとする残り数枚になった時、見知った女天使の姿を絵画の中に見つけた。ガブリエルにいわゆるお姫様抱っこをされ、輝くような笑顔を見せているのは……。
「アリエル……」
悪魔狩りでガブルエルにいつも同行しているあの女天使だった。
ガブリエルと一緒にいる時のアリエルは、凜としているというか、ツンとしているというか、とにかくガブリエル以外は寄せ付けないオーラが全開なのだが……。
間違いなく婚儀の一幕を描いたこの絵で見せているアリエルの笑顔は、喜びに満ち、女性らしい優しさで溢れている。
陽光を受け、輝きが増しているバターブロンドの髪。
血色の良い肌に、碧い瞳、バラ色の唇。
絵画では美姫だが、アリエルのあの様子だと、もう何度も悪魔狩りに出向いている。
相当腕も立つ女騎士なのだろう……。
次のフロアに向かった。
◇
一部エリアを流し見したせいもあるが、今日一日で美術館のフロアはほぼ見終わった。明日で確実に見終わる。『役割』としてこれが本当に正しいことなのか分からないが、ひとまず順調、だろうか。
ともかく今日の『役割』を終え、アクラシエルと共に家へ帰る。
アクラシエルはどこに住んでいるのかと思ったら、俺達が住む家の大通りを挟んだ向かいの家の二階だった。
「前は別の場所に住んでいたのですが、最近こちらに越してきたんです。本当にご近所なので、これからもよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げ、アクラシエルは部屋へと入っていった。
俺もドアを開け、声をかける。
「ソフィア、ただいま」
「マティアス様!」
ソフィアが小走りでやって来て、輝く太陽のような笑顔を向けた。
自然と俺も笑顔となり、その体を抱きしめていた。
全身でソフィアを感じ、体中が喜びで満たされる。
今日一日ずっとこうすることを願っていた。
万感の想いだった。
ああ、ソフィア……。
声にならない声を、胸の中で何度も繰り返してしまう。
もうずっとこのまま離れたくなかった。
「マ、マティアス様……」
ソフィアが顔を上げる。
「夕ご飯の用意ができています。……召し上がりませんか?」
「そうだな。でも夕食よりソフィアを食べたい……」
「⁇」
「冗談だよ。食事にしよう」
キスもしたかったが止まらなくなる。
食事どころではなくなると分かっていたので、体を離すと手をつなぎ、リビングへ向かった。
テーブルには、ソフィアが作った様々な種類のサンドイッチがズラリと並んでいた。野菜サンド、クロワッサンサンド、バケットサンド、ベーグルサンド。ババロア、ゼリーと言ったデザートもあった。
「すごいな、ソフィア。このパンはホワイト・ベーカリーで?」
「はい! 閉店時に残っているパンをいただきました。今晩すべて食べきれなくても大丈夫ですよ。残ったら朝食に回します」
「分かった。ありがとう、ソフィア、こんなに沢山用意してくれて」
「……ベラやロルフもいてくれたら、あっという間になくなるのですが」
……!
魔王の俺に仕え、地上へ堕ちた後も共に過ごし、ソフィアを守るためにその身を投げ出したベラとロルフ……。
エウリールによれば二人とも魔力を使い切り、人間となり、夫婦になったと言っていた。
今頃地上で二人も夕食を楽しんでいるのだろうか……。
「マティアス様」
ソフィアがテーブルにのせていた俺の手に自身の手を重ねる。
「ベラとロルフは地上でうまくやっていますよ。大丈夫です」
「そうだな……」
ソフィアの手をとると、その甲に唇を押し当てた。
そう言えばエウリールによると、手やおでこへのキスは主の祝福を与えていることになるんだっけ……?
「いただきますか、マティアス様」
「ああ」
ソフィアの手を離し「いただきます」と言い、バケットサンドへ手を伸ばした。
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次回更新タイトルは「天使とは思えない邪な理由」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も学校、お仕事、頑張りましょう‼




