天界の女天使は女悪魔並みに奔放⁉
本当に食欲は全くと言っていいほど沸いていない。
だが食堂に着くと、そこには沢山の天使の姿があった。
図書館ではカウンターで見かけた女天使、そしてアクラシエルと俺しかいなかったような状態だった。だから沢山の天使がいて、談笑しながら食事を楽しむ様子に、心からホッとしてしまう。そして食欲は沸いていないのに、ただ他の天使と同じように談笑を楽しむため、食事を摂りたいという気持ちになっていた。
その結果、特に食べたかったわけではないサラダとライ麦パンを注文し、アクラシエルと共に席につく。すると何人かの天使がアクラシエルに声をかけ、俺達のテーブルに座った。
さすが千年以上図書館での『役割』を担っているだけあり、元図書館の係員、教え子とも言える天使が何人もいた。彼らは新入りの俺とも難なく打ち解け、天界の暮らしについて、いろいろアドバイスをくれる。
食事を終えてから理解したのだが、この昼休憩は正確にはシェスタだった。つまり食事の時間に加え、昼寝の時間も取られていた。昼寝をしてもいい、といわれても、一体どこで取ればいいのかと思ったら、アクラシエルがとっておきの場所へ案内してくれた。
そこは博物館のエリア、最上階の四十六階だ。
まだ展示品で埋まっていないエリアが多い四十六階には、窓に面してカウチソファがいくつも並べられている。
カウチソファはゆとりあるサイズで、もしかしたら翼をのばしたままうつ伏せ寝ができるのではという大きさだ。
俺は窓に一番近いカウチソファに横になった。
開放的な窓からは、その先に宇宙があると感じられる神秘的な碧空が広がっている。
仕事らしき仕事もせず、たいして疲れたわけでもないのに、こうやって横になると自然と瞼が重くなった。
ソフィアも今、同じように昼寝をしているのだろうか……。例え一度経験したことのある『役割』であっても、ソフィアも俺と同じ図書館の係員だったら……。今頃胸の中にその体を抱き寄せ、一緒に昼寝ができたのに……。
そんなことを思いながら眠りに落ちた。
◇
どれぐらい眠っていたのか。
スマホもなく目覚ましもないので、完全に自分の感覚で目覚めることになったのだが……。
胸に温かさを感じ、伸ばした腕に触れる柔らかい肌を認識する。
……?
俺の腕の中にストロベリーブロンドの髪の天使がいた。
「アクラシエル⁉」
慌てて飛び起きる。
「あ、マティアスさん」
アクラシエルは琥珀色の瞳をゆっくり開け、欠伸をかみ殺しながら起き上がった。
「ど、どうして……」
余りにも驚き、それしか言葉が出ない。
アクラシエルは子供のように目をこすりながら答えた。
「すみません。マティアスさん。あまりにも気持ちよさそうに寝ていたので、つい……」
気持ちよさそうに寝ている男がいたら、その胸の中に潜りこむのか⁉
天界の女天使は女悪魔並みに奔放なのか……⁉
……いや、違う。
恋愛感情や肉欲とは無縁なんだ。
だから気持ちよさそうに寝ている天使がいれば、相手の男女の区別に関係なく、その腕の中に忍び込む……いや添い寝するような感じなのか。
現にアクラシエルに不謹慎なことをしたという表情は……。
……!
「マティアスさんの胸の中は広くて温かく、とても落ち着きました。胸板は厚く、腕の筋肉もしっかりついていて、本当にとても逞しい体ですね……」
頬をほんのりピンク色に染めた。
なんだ、この反応は?
思いっきり異性を意識した発言に思えるのだが……。
「マティアスさんの体内時計、さすがですね。丁度昼休憩が終わる時間です。午後も頑張りましょう」
アクラシエルはそう言うなり手を振ると、中央の吹き抜けの方に駆けて行ってしまう。
呆気にとられながらその後ろ姿を見送った。
悪気はないのだろう。
それにソフィアのことだって知っているんだ。
俺の腕の中でアクラシエルが寝ていた件はなかったことにして、美術館のフロアに戻った。
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次回更新タイトルは「夕食よりソフィアを食べたい」です。
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