謎めいたラファエル
三十三階。
ここに展示されているのは大天使ラファエル……。
だが俺とソフィアにとっては、その名よりもphantomという名の方が馴染みがあった。
phantom……。
phantomは地上において、日本のみならず、世界でもその曲が配信され、人気急上昇中のアーティストだった。歌だけではなく、絵の才能もあり、NFTアートの世界でも話題になっている。
ソフィアと俺はphantomがあのラファエルだとは思わず、共に仕事をし、信頼し、尊敬していた。
だが……。
phantomは……ラファエルは、俺のそばで純潔を保つソフィアに興味を持ち、清らかな心に惹かれ、ソフィアを自分の花嫁にと思うようになっていた。そしてソフィアの中に眠る天使の力を目覚めさせ、俺と引き離そうとした。
俺はそれを阻止しようとして……。
「……!」
ラファエルとの因縁を思い出しながら歩いていたので、ほとんどの絵を見ているようで見ていなかったが、これは目に留まる絵だった。
これは婚儀を挙げているのか……?
エウリールの言葉を思い出す。
「ラファエルは大天使の中でも特殊だ。ラファエルには二つの側面がある。大天使として戦闘に赴く時の戦士の側面。芸術をこよなく愛する守護者としての側面。そのことからラファエルだけは特別に男の天使と女の天使、それぞれとの婚姻が認められている。ラファエルには既に婚姻関係にある男の天使がいるが、女の天使はまだいない。つまりソフィアを自分の妻に迎える可能性が高い」
ということはこの白いベールを被り、まるで女性が着るようにキトンを着ているが、これは男の天使で花婿、ということなのか。
絵画には、こんな様子が描かれていた。
晴れ渡った雲一つない澄んだ青空。
鮮やかなバラの花びらが舞い散り、真っ白な鳩が何羽も羽ばたいていた。
ラファエルは輝くような笑顔を浮かべ、頭には月桂樹の冠を被っている。
その体は純白のキトンで包まれていたが、さらにその上に金糸で繊細な刺繍が施された美しい琥珀色のマントを羽織っていた。右肩に載せられたマントは右胸を覆い、そのまま左腰の辺りで金の金具でとめられている。
そのラファエルの隣には、細身で小柄な花婿の姿があった。
ソフィアがそうしているように、ドーリス式でキトンを着ており、頭にはラファエルと同じ月桂樹の冠が載せられているが、その下には純白のペールを被っている。
つまり、この絵画を見る限り、まずラファエルの性別が判定できなかった。
マントから出ている左胸はキトンで覆われており、そこはドレープたっぷりに描かれ、胸の膨らみは描かれていない。右胸はマントで隠され、こちらも胸の膨らみは描かれていない。
さらにラファエルの顔立ちはそもそもが中性的なので、男性として描いている、と言われればそうだと思えたし、女性です、と言われれば、そうなのかと信じられるような描き方になっていた。
さらに隣の花婿のキトンは、俺のように片胸を出すような着方ではなく、ソフィアのように両肩で布をとめている着方なので、パッと見は女性に見えた。さらにベールを被っているので、顔はもちろん髪も見えない。だからこちらも男女の区別が難しかった。
なぜ花婿と判定できたのかと言えば、エウリールからラファエルは婚姻関係にある男の天使がいると聞いていたからだ。
もしこの事前情報がなければ……。
花婿がラファエルで、女天使の花嫁との婚儀の絵、と思ったことだろう。
「この絵画が気に入ったのですか?」
突然声をかけられ、心臓が止まりそうだった。
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次回更新タイトルは「溺愛」です。
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