今すぐベッドで抱きしめたい
「これはソフィアは知らないかもしれないが、『役割』を持たない天使もいるのだろうか? 『役割』を休む……つまりオフや休暇の概念はあるのだろうか?」
「……! それ、気になりますよね。アクラシエルさんに勿論確認しました」
「そうなのか。それで?」
「『役割』を持たない天使もいます。そういう天使は大概が、天使軍に従軍する立場の方々です。つまり騎士の皆さんですね。本人が希望すれば『役割』を担うこともできるようです。兼任という形で。騎士になることを希望する天使は『天界軍騎士総本部』に出向くそうですよ。あとは大天使によるスカウトもあるそうですが……」
ソフィアの表情が曇る。
大天使によるスカウト……。
それを断れるかどうかは分からない。だがひとまず今この時は、ソフイァには明るい顔でいてもらいたかった。だから話題を変えることにする。
「ソフイァ、休暇の方はどうなんだ?」
「あ、はい。休暇は短いものであれば、直接自分が『役割』を担っている現場の方に、明日は休みたい、今日は休みます、と言えばいいようです。ただ、休みと言ってもすることもないようで、皆さんめったに休まないようですよ。
長期の場合は『天界軍騎士総本部』に出向けば、役割交換をしてくれるそうです。交換と言っても騎士になるわけではなく、『役割を持たないという役割』と交換ですね。戦がなければ『天界軍騎士総本部』にいる騎士はただの『役割』を持たない天使ですから」
ソフィアがいろいろ確認しておいてくれたおかげで、天界について理解できてきた。
こうやって勉強熱心なところは、魔界にいようと地上にいようとソフィアは変わらない。
「……ソフィア、俺がいない間にいろいろ調べてくれてありがとう。おかげで今晩は安心して休めそうだ」
「それは良かったです」
嬉しそうに微笑むソフィアを見た瞬間、愛しいと思う気持ちが高まる。
「ソフィア、明日は『役割』があるのだろう? もう遅いし休もう」
今すぐベッドでソフィアを抱きしめたくなっていた。
「あ、はい。私は朝7時からですが、マティアス様は10時からなので、朝はゆっくり休んでくださいね」
「そうか。ソフィアは朝が早いのに遅くまで待たせてしまい、すまなかった」
その時だった。
ソフィアの碧い瞳から一粒の涙がこぼれ落ちる。
「ソフィア……?」
まるで堰を切ったように、次々と涙がこぼれ落ちていた。
「す、すみません、マティアス様」
ソフィアは俺に背を向け、涙を拭っている。
「どうした、ソフィア」
堪らず、後ろからソフィアを抱きしめていた。
……! 震えている……?
「……マティアス様、すみません。今、落ち着きますから」
「いや、泣きたい時には泣けばいい。俺は止めるつもりはない。ただ、なぜ泣いているのか、それが分からなくて心配なんだ」
いつも抱きしめる度に感じていた。
ソフィアは何事にも一生懸命で、気丈で、我慢強い。でもその体は小さく、華奢で、強く抱きしめたら壊れてしまいそうだった。そんなソフィアの細い肩に、俺はいつも重荷を背負わせていないか?
記憶を失い魔界で暮らすようになった時。すべてを失い地上に堕とされた時。
そしてこの天界へ来てからも……。
ソフィアに苦労ばかりかけてはいないだろうか?
「……マティアス様が」
「うん。俺がどうした?」
「悪魔狩りから戻って来なかったらと、さっきまでずっと心配していて」
「……!」
「明日の朝を心配できる。明日は『役割』があるからマティアス様はどこにも連れて行かれない。そう思ったら安心して、気が緩んでしまって、つい涙が……」
そんなことを言われたら、もう止まらなかった。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
この投稿を新たに見つけていただけた方も、ありがとうございます!
次回更新タイトルは「奪うようにキスをして……」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も学校、お仕事、頑張りましょう‼




