心の傷
結局この日の悪魔狩りは深夜まで及んだ。
俺が予想した通り、黒い森は悪魔にとって心地の良い暗さと闇を提供していたようで、沢山の悪魔が潜んでいた。
自分の矢では足りなくなり、女天使の矢を使い、40体の悪魔を射抜き、53体の悪魔を剣で斬り捨てた。
ガブリエルと女天使は一切悪魔を手にかけていない。
俺を囮に悪魔を集め、そしてその始末をすべて俺に押し付けた。
天界に戻る頃には身体の疲れよりも、心が疲弊していた。
魔王として魔界を統治していた時は、天界との戦で数を減らす悪魔に頭を悩ませた。なんとか悪魔の数を増やし、滅びの道を緩やかにしたいと考えていた。
それなのに。
今日の俺は沢山の悪魔の命を奪った。
心は虚しさで満ちている。
ガブリエルと女天使の姿は遥か先に見えていた。
その後ろ姿をただ無気力に追い、気づけば天界に戻ってきていた。
すると見知らぬ女天使が俺を迎える。
「悪魔狩り、お疲れ様でございました。これより地上の穢れと悪魔の不浄を落とします」
女天使は俺から弓と矢筒を受け取り、腰の剣を外し、別の女天使に渡す。そしてそのまま腰ひもをはずし、肩の留め具を外した。
……!
キトンなんて布を体に巻き付け、金具で留めたに過ぎない。
腰ひもも外されていたから、下着一枚の姿になっていた。
「な……」
俺はひるんだが女天使は表情を変えず、俺の両肩を掴むと、思いがけない力でぐっと押す。不本意ながら柔らかい芝の上に、両膝をついていた。すると女天使は、俺の上半身をふわりと抱きしめる。
その瞬間、女天使が放つ光に全身が包まれた。
不思議だった。
鉛のように重くなっていた体が瞬時に軽くなる。
疲弊していた心が軽やかになっていく。
女天使は俺の両手を掴み、立ち上がらせると、今度は手早くおろしたてのキトンを着せた。
「穏やかな休息を」
女天使はそう言うと、俺を残し、帰還した別の天使の元に向かう。
これが天使の持つ癒しの力……。
噂には聞いていたが、こんなに即効性があるとは……。
悪魔が天使に勝てないのは当然だと思えた。
それでも。
魔界との戦闘で心を病む天使が多かったと、エウリールは言っていた。
そのために忘却の矢があるとも。
すっかり暗くなった天界を見渡す。
夜の帳は降りていたが、広がる丘には沢山の淡い光が飛び交っている。それはまるで蛍の光のようだった。そしてそこかしこにランタンが置かれ、幻想的な景色を浮かび上がらせている。
頭上には銀色に輝く三日月。
その周囲には星空というより宇宙が広がっていた。
赤い月が昇り、赤黒い夜空が広がる魔界とは別世界だった。
ゆっくりと、あの神殿に続く坂道をのぼりはじめた。
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次回更新タイトルは「愛おしいという気持ち」です。
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