無視したいが、無視できない。
「元魔王の俺に悪魔狩りをさせる? どんだけ悪趣味をしているんだ? それでも大天使か? ラファエルといいお前といい、大天使は悪魔より残酷だな」
ガブリエルの言葉を無視し、神殿の中に入ることにした。
大天使と言えど、天使に手を出すことはできない。
だが。
「警告をしておこう、マティアス。ボクの命令は天界の教義に反するものではない。君は天使なんだ。悪魔狩りをして当然だ」
ガブリエルは怒りを顔に出すことを止めたようだ。
能面のような顔で俺に言葉を投げつける。
その顔を一瞥し、ソフィアの手をとると、神殿の扉の前に立った。
つまりガブリエルのことを無視した。
すると……。
「命じられた君は従う必要がある。従わなければ、裁きがくだされる」
「裁き、だと?」
俺はガブリエルを睨んだ。
「そうだ。大天使の命令に逆らう天使など見たことがない。どんな裁きが下されるのか、ボクにも分からない。何が起きるか楽しみだな、マティアス。裁きがくだされた時、君の横にいる女性の天使はどう思うだろうか?」
ガブリエルの言葉にソフィアの顔が青ざめる。
くそっ。
ソフィアのことを持ち出すなんて、かえすがえすも大天使って奴は悪知恵が働く……。
大天使の命令一つ背いたぐらいで裁きが下される、だと? 俺が知る主による裁きは白い炎で焼かれる、人間として地上へ堕とされるぐらいだ。命令に背いたぐらいで白い炎に焼かれることはないだろう。地上へ堕とされることもないだろう。
では他にどんな裁きがある?
だがどんな裁きであろうとそれが下されれば……ソフィアは悲しむ。
それに取り返しのつかないことになるかもしれない。
そうなればソフィアは……。
無視したいが、無視できない。
俺はため息をつくとソフィアを見た。
「……ソフィア、待たせることになりすまない。不本意ではあるが、ガブリエルの悪魔狩りに付き合うことにする。ここに来る途中にイチイの巨木があっただろう? この木の下で待っていてくれ。ただ、待つと言っても日没までだ。それまでに俺が戻らなかったから、悪いがソフィア、身を休める場所を探し、そこへ移動してくれ。俺は何があってもあの木の下に戻るから」
ソフィアは不安でいっぱいのはずだった。
だが、何も言わずにただ頷いた。
俺はソフィアを抱きしめると純白の翼を広げた。
悪魔の羽よりずっしりと重みを感じる。
でもほとんど力を使わずとも空に舞い上がることができた。
ガブリエルはすでに数百メートル先を、女天使を連れ、飛んでいた。
俺は神殿を見下ろす。
ソフィアが心配そうにこちらを見上げている。
「大丈夫」と示すように俺は頷くと、忌々しいガブリエルの姿を追った。
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次回更新タイトルは「魔王の面影」です。
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