死後の世界
静かに風が吹いて、周囲の草が緩やかに揺れていた。
空ではゆっくり雲が移動していた。
太陽は穏やかに降り注ぎ、鳥の鳴き声が聞こえ、遠くでウサギが飛び跳ね、その近くには鹿の親子の姿が見えた。
俺と同じように白い羽根、白い服を着た女性や男性があちこちで楽しそうに笑い、話をしていた。
「そこにいたのか、マティアス」
突然、見知らぬ男に声をかけられた。
「まあ……名前さえも覚えていなんだろうが。しかしお前が金髪碧眼になるとは。違和感満点だな」
男はそう言うと、俺の隣に座った。
「しかし。こうも上手くいくとは思わなかった。だが一か八かの賭けだった」
男はそう言うと、空を見上げた。
「お前はかつてロルフとベラを命がけで助けた。だからロルフとベラも、お前が守りたいと思った者のためにその身を犠牲にしようとした。
だがそんな二人をお前が放っておくわけがない。ロルフとベラを守るために、お前はまた自分の身を犠牲にした。
……ラファエルが放った天使の力、あれはソフィアの封印を解くための力だった。それをお前さんは背中に受け、死んでここ、天界に来た」
……? 何の話だ?
「大天使と言えど、罪のない人間を殺めることは許されない。ラファエルには天の裁きが下され、マティアス、お前は天界へ召され、天使になったんだよ。まったく前代未聞だ。元魔王が天使になったんだぞ?」
男は笑っているが、俺は全然笑えない。
「魔界から地上へ落ち、人間になった時点でお前はすべてがリセットされた。地上へ落ちてからのお前は、何一つ罪を犯していなかった。だからこうやって天界に来ることができたわけだ。
ラファエルは……奴は寛大な主の御心により、白い炎に焼かれることは免れた。代わりに人間として地上に落とされ、修業することになった。さて、奴はいつになったら天界へ戻って来られるのやら……」
見知らぬ男が何を話しているのか、さっぱり理解できなかった。
「とりあえずおれはお前の魂に刻まれた地上での記憶を見せたら、とんずらするから先に話しておいた。今度はいつ会えるか分からんからな。
さっき、ソフィアにも同じことをしたから、記憶を見終わったらあそこの丘の神殿へ行け。そこでソフィアが待っているから。
あと、ロルフとベラは無事だ。最後の魔力を使い切り、人間になった。夫婦二人でうまくやっていくってさ」
男はそれだけ言うと立ち上がり
「じゃあな、マティアス。今度こそ、ソフィアのことをちゃんと抱けよ」
そう言って俺の頭に手を触れた瞬間、俺は意識を失った。
◇
頭の中で映画を早送りするように映像が流れた。
身一つで落ちた島国日本で起きた数々の出来事。
俺を追って落ちてきたロルフとベラ。
エミリアという女悪魔との出会い。
突然のスカウトからの芸能活動。
様々な衣装に身を包み、自分ではないキャラクターを演じ、いろいろな場所に行った。
エウリールと再会し、ゲオルクとヘルマンに襲われ、phantomに誘われ……。
俺が経験した地上でのあらゆること、その時いつもそばには……ソフィアがいた。
そう、ソフィア。俺が生涯で心から愛したたった一人の女性だ。
そして俺の名は――元魔王のマティアスだ。
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次回更新タイトルは「永遠の愛の誓い」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も学校、お仕事、頑張りましょう‼
【完結】『歌詠みと言霊使いのラブ&バトル』
https://ncode.syosetu.com/n7794hr/
バトルパートでは激しい戦闘もあればコミカルな戦いもあり
恋愛パートは思春期の男子らしいHな描写もあれば、甘く切ない展開もあります。
仲間との友情も描かれています。
全67話で完結済みです。一気読みにいかがでしょうか⁉
ぜひこちらの作品もよろしくお願いいたします。




