phantom
「お前たちがphantomと呼んでいる者の正体、それがラファエルだ」
「ちょっと待ってくれ。phantomは三年前から日本で活動をしている。大天使のラファエルが三年に渡り芸能活動をしていたというのか?」
「まさか。三年前と言ったら、おれ達は戦の真っ只中だ。冷静になれ、マティアス。相手は大天使だ。三年前から存在していた、と人間達に信じ込ませることぐらい簡単にできる」
そうだった。
ゲオルクとヘルマンの一件の時、天使軍は堂々と上空にその姿を現した。
多くの人間がそれを目撃したことだろう。
だがSNSやニュースでそのことが騒がれることはなかった。
大天使だったら、そんなこと、なかったものとして人間の記憶をすり替えることができた。
「ラファエルはソフィアに直接会い、接触することで、ソフィアの中に天使の力が眠っていることに、封印されていることに気づいた」
「……」
「とはいえ、強引にソフィアをお前から引きはがすことはできなかった。マティアス、お前が人間だからだ。もしお前が魔王のままだったら、すぐにでもソフィアをお前から引き離していただろう。
だが、お前は律儀に禁欲の誓いを守り、ソフィアに手を出すことなく、ただそばに置いていた。だからラファエルは策を練った。お前たちに自分を信頼させ、そしてこの神の家に誘い出すことにした。ここに来たのは、マティアス、自分の意志だろう? 誰かに連れらされたわけではない。ソフィアも同じだ」
「ラファエルはソフィアと俺を神の家に誘い出し、何をしようとしているんだ?」
「封印されたソフィアの天使の力を目覚めさせようとしている」
「え……」
「陥落させた魔界を、天使軍は白く清めていただろう。あれは魔界に満ちる魔力を消しさせるために必要なことだった。魔力に満ちた空気は天使の力を弱めるんだよ。だから魔界において、天使は自力で封印を解くことはできなかった。でも神の力が満ち渡る天界に戻り、天界の食べ物を口にし、祝福を受けることで、弱まっていた天使の力が元に戻る。自身の力で封印を解くこともできるようになるんだよ、マティアス」
「そうなのか⁉」
「ああ。ソフィアはラファエルから祝福を受けていなかったか? 天界の食べ物を口にしなかったか?」
「祝福は分からないが、食べ物は……アフタヌーンティーで出されたものがそうだったと思う。俺も口にした」
「なるほど。だからお前は眠っていたのだな。神の力が宿る天界の食べ物に体が追いつかなかったのだろう。それにしても、天界の食べ物を人間が口にすることなんてそうあることではない。まあ、でもそれを口にしたということは、マティアス、お前は今、聖人に近い存在になっているはずだ」
「と言われても……」
「まあ、そうだな。ラファエルの祝福だが、おでこだったり、手だったりに行われるキスだ。心当たりは?」
「ある。ソフィアはラファエルから祝福を受けていた」
「やはりな。それで今はドレスの試着……間違いなく、それは天界で織られた布を使ったものだ。神の家で、天界の食べ物を口にし、天界で織られた衣をまとい、そして大天使から祝福を受ける。ソフィアの中の力が目覚め、自らの力で封印を解いてもおかしくない条件が揃ってしまった」
「もしソフィアの封印が解け、ここで天使の力が目覚めたら、ソフィアはどうなるんだ?」
「天使の力が目覚めた、羽を広げることができるようになった、それだけだ」
「じゃあもし天使の力が目覚めたとしても、ソフィアを連れ戻せば……」
「そうなる前にラファエルがソフィアのことを天界へ連れて行くだろうな」
「……!」
「天界にソフィアが行ったとしても以前みたいにおれが連れ出せるとは期待しないでほしい。なぜなら」
ウリエルはそこで言葉を切った。
「元魔王のそばいる、とはいえ、ソフィアは数多くいる天使の一人に過ぎない。そのソフィアに、大天使であるラファエルがなぜここまで手の込んだことをする? 最初はソフィアの美しい心への興味だったのかもしれない。だが次第にラファエルは本気でソフィアのことを気に入ってしまったのではないかと思うんだ。
ラファエルは大天使の中でも特殊だ。ラファエルには二つの側面がある。大天使として戦闘に赴く時の戦士の側面。芸術をこよなく愛する守護者としての側面。そのことからラファエルだけは特別に男の天使と女の天使、それぞれとの婚姻が認められている。ラファエルには既に婚姻関係にある男の天使がいるが、女の天使はまだいない。つまりソフィアを自分の妻に迎える可能性が高い」
天使には天使同士による婚姻が認められていた。一度婚姻すれば相手が命を落とすまでその婚姻関係は絶対的に続く。人間や悪魔のように離婚することはもちろん、不倫も許されない。
「そんな話があるか⁉ いくら大天使でも愛し合う者を引き離すことはできないはずだ」
「ああ。それはラファエルも百も承知だ。よく考えてみろ。神の家に連れ去らわれたわけじゃないだろう? アフタヌーンティーも無理やり食べさせられたか? 自分達の意志で食べたはずだ。ソフィアは強引にドレスを着せられたか? いや用意されたドレスをソフィア喜んで試したことだろう。そして……天使の力を目覚めさせるのも、ソフィア自身だ。例えお膳立てされたとしても」
「そんな……卑怯じゃないか。それが大天使のする所業か⁉」
「同じ大天使と恥ずかしいと思っている」
「……。もういい、ウリエル。一刻も早く、ソフィアをここから連れ出したい。天使の力が目覚めてしまう前に」
「もちろんそのつもりだ。だからお前の仲間を呼んでやった」
「え……」
「マティアス!」
ウリエルの懐から、ロルフとベラが顔を出した。
「……! ここは神の家だぞ⁉」
「おれの懐に入っている限り、気づかれない」
「でも、ロルフ、ベラ、ウリエルの懐の中で、苦しくはないのか……?」
大天使の懐。神の力が満ちているはずだ。悪魔である二人にはキツイのでは……?
「多少は苦しいけど、大丈夫だ。早くソフィアを助けに行こう」
ロルフの言葉にベラも頷いた。
「でもどうやってソフィアを助け出せばいいんだ? 俺には戦う術がない」
「大丈夫だ、マティアス。お前は人間だから、ラファエルがお前を傷つけることはできない。正面から正々堂々、ソフィアを返すように要求すればいい」
「そんな要求だけで、ソフィアを返すのか……?」
「明確には拒まない。いや、正確に言うと、拒むことはできない」
「じゃあソフィアは取り戻せるんだな?」
「マティアス、それは分からない。ラファエルがどう出るかは。そしてここは神の家でおれができる協力も限られる。ここにロルフとベラがいる、それも表向きは、魔力を宿す生物を発見したから捕えた、ということになる」
なるほど。
大天使であるウリエルは、神の家で俺に対して表立った協力はできない。
ソフィアをどう助けるかは俺に自分で考えろということだ。
「とりあえず、おれはこの捕えた生物についてラファエルのところに報告に行くつもりだ」
つまり、ソフィアがいる場所へ俺を案内する、ということだ。
俺は頷き、椅子から立ち上がった。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
この投稿を新たに見つけていただけた方も、ありがとうございます!
次回更新タイトルは「救済」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も学校、お仕事、頑張りましょう‼
【完結】『歌詠みと言霊使いのラブ&バトル』
https://ncode.syosetu.com/n7794hr/
バトルパートでは激しい戦闘もあればコミカルな戦いもあり
恋愛パートは思春期の男子らしいHな描写もあれば、甘く切ない展開もあります。
仲間との友情も描かれています。
全67話で完結済みです。一気読みにいかがでしょうか⁉
ぜひこちらの作品もよろしくお願いいたします。




