同士のよしみ
上空を見ると、確かに天使軍の姿が見えた。
倉庫の屋根から逃げた悪魔の一部は天使軍と遭遇したようで、戦闘が繰り広げられていた。
空から車に目を戻すと、ソフィアをまず車に乗せた。
「ロルフとベラも早く」
「待て、マティアス」
その声に俺は動きを止め、振り返った。
……エウリール……いや、ウリエル。
「ソフィアは魔力で口を封じられている。おれの力でその魔力を解こう」
車に近づいたウリエルは、ソフィアを呼んだ。
するとウリエルはいきなりソフィアに口づけをした。
「な、ウリエル、お前……」
近づこうとする俺をウリエルは手で制した。
「よし、これで大丈夫だ」
ソフィアの頬は上気し、少し開いた口からは滴がこぼれ落ちた。
「ウリエル、説明しろ!」
「だから魔力を解いたんだよ、天使の力で。まさかマティアス、おれがソフィアの唇に触れたと思ったのか? そんなことするわけないだろう。天使の力を送り込んだだけだ」
「そうなのか……。疑ってすまなかった」
「まったく。お前はソフィアとキスをしたくて、したくて、堪らなかったのだろう? 安心しろ。唇にキスできるぞ」
「え……」
「ソフィアの口に、天使の力を残しておいた。キスをしても天使の力が作用して、キスをしたとカウントされない。まあ、食品用ラップフィルムごしにキスをしているようなもんだ。そうはいっても天使の力は見えないし感じられないから、普通にキスしているのと変わらんがな」
ウリエルはそう言うと俺の肩をポンと叩いた。
「行けよ、マティアス」
「……ウリエル、どうして、天使に戻った?」
「仕方ないさ。これしか方法がなかった。おれも地上に落とされた時点で魔力も羽も奪われていたからな。魔王騎士団と悪魔数千を相手にするには、人間のままでは無理だった。だから天使に悪魔が集結していると知らせ、その見返りに大天使への復権を求めた。元々、主が持つ予言書の中で、おれは堕天することが予告されていた。そして復権することも。だからあっさり、復権できたというわけだ」
「俺たちを助けるために……?」
「さあな、どうかな。丁度世話になっていた人間の女に浮気がバレて、追い出されそうになっていた。そろそろ天使に戻るいい頃合いだったのかもしれない」
「……話し方が悪魔の時のままだ。まだ、未練があるのでは? 天使ではない自分に」
「ふふ。マティアスはわたくしのこの口調の方が気に入っているのかな?」
「……いや、悪魔の時の方がいいな」
「だろうと思ったよ。さあ、早く行け。お前がここにいると分かるとややこしくなる」
「分かった。恩にきる」
「同士のよしみさ。おれもお前と同じだったからな」
「え」
「マティアス、天使軍が地上に降りてきている。早く」
ロルフに促され、俺は車に乗った。
ウリエルの姿はもうなかった。
◇
そのまま家に戻ろうとしたら、ベラがデパートに戻るように俺に訴えた。
ソフィアのカバンやスマホ、買い物したもの、そのすべてをデパートに置いてきたのだという。
魔力で人には見えないようにしてあるから、盗まれていることはない。だから早く取りに行こうというのだ。
「だったら別の日でもいいのでは?」
「ダメだ。マティアスもソフィアも明日から仕事だろう。あたしやロルフで持てる荷物じゃない。それとも次のオフまで放置か?」
「……。ソフィアは疲れていないか? 一刻も早く家に帰りたいのでは?」
「私は大丈夫です……。マティアス様こそお疲れでは?」
……あんなに怖い思いをしたのに、俺のことを気遣うなんて……。
今すぐ抱きしめたくなる衝動を抑え、ソフィアの頭を優しくなでた。
「俺は大丈夫だ。本当に、ソフィアが無事で良かった」
「じゃあ、とっとデパートに寄って、家へ帰ろうぜ」
ロルフの言葉に頷き、俺たちはデパートへ向かった。
◇
ようやくマンションに着くと、俺たちはバレないようにこっそりと裏口から部屋に戻った。
協力してもらった記者とカメラマンには、匿名でデリバリーのステーキ弁当を差し入れておいた。
「オレもベラも魔力を使ったから腹ペコだぜ、マティアス」
「分かっている。ちゃんと全員分の配達を頼んでおいたから」
ロルフとベラは大喜びだった。
「デリバリーが届くまで時間がある。ソフィア、着替えでもするか?」
「……はい。シャワー、浴びてきますね」
俺は頷き、ソフィアが戻ったらすぐ食事ができるよう準備を整えた。
「ベラ、倉庫に連れ込まれてから、ソフィアは何もされていないんだよな?」
「ええ。それは大丈夫。ちょっとでも変なことしたら、噛みついて引っ掻いてこてんぱにするつもりで毛を逆立て、ソフィアを守っていたから」
「そうか……。良かった……」
「ソフィアは強かったわよ。戦場に出たこともない、お城の中でマティアスの秘書だけやっていたとは思えないぐらい。ゲオルクやヘルマンからどれだけなじられても、決して涙を見せなかった。あの集結した悪魔たちの前にあんな姿で連れ出されて、卑猥な言葉を投げつけられても屈しなかった。心が折れなかった。まるでジャンヌ・ダルクね」
ソフィアはいつの間にそんなに強くなったのだろう……。
いや、地上へ落ちてからのソフィアはとっても逞しくなっていた。
「マティアス、肉の香りがするぞ!」
ロルフが飛び起きた。
そしてインターフォンが鳴り、ソフィアはシャワーを終えて出てきた。
「よし。腹ごしらえをしよう」
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次回更新タイトルは「サプライズ」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も学校、お仕事、頑張りましょう‼
【完結】『歌詠みと言霊使いのラブ&バトル』
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バトルパートでは激しい戦闘もあればコミカルな戦いもあり
恋愛パートは思春期の男子らしいHな描写もあれば、甘く切ない展開もあります。
仲間との友情も描かれています。
全67話で完結済みです。一気読みにいかがでしょうか⁉
ぜひこちらの作品もよろしくお願いいたします。




