溢れ出す想い
大浴場から戻ると今日はソフィアが先に部屋に戻っていて、昨日と同じ、庭園を見渡すことができる椅子に座っていた。
「マティアス様、お水、用意してありますよ」
温泉から戻った浴衣姿のソフィアは……やはりほのかな色気があり、俺の胸を高鳴らせた。
でも、もう誤魔化さなくていいんだよな。
「ありがとう、ソフィア」
向かいの席に腰を下ろした。
「昨日も思ったけど、浴衣で温泉から出た後のソフィアはほのかな色気があって、見ていてドキドキする」
ソフィアはグラスを持ったまま固まり、色づいていた肌が一気にバラ色に染まった。
「その初々しい反応も、見ていると思わず抱きしめたくなる」
「マ、マティアス様、きゅ、急にどうしたんですか⁉」
「いつもソフィアを見て感じていたことだよ。それを伝えることができなくて、これまでは苦しかった。でも……もう想いを伝えていいんだよな」
ソフィアは切なさそうな表情を浮かべた。
「……マティアス様はそこまで私のことを思ってくださっていたのに、どうして今日までその想いを黙っていたのですか?」
「え……」
「今日、もし神社のロケがなくて、私が何も気が付かなかったら、いつすべてを話すつもりだったのですか?」
鋭い質問だった。水を一口飲んだ。
「……ソフィアが魔界に来て、新しい環境に慣れ、落ち着いたらすぐにでもすべてを話そうと思っていた。でも……怖かった。
ソフィアは俺と出会った時の記憶はないし、知り合って一年や二年で想いを告げても断られてしまうかもしれない。そんな風に考えると、あと一年経ったら、もう一年経ったらと、年数を重ねてしまった。そうしているうちに天界との戦いが激化して……」
そこで再び水を飲んだ。
「魔界が落ちる日は近いと感じていた。悪魔は天使に倒されるとそれでお終いだ。でも天使は魂が再び主の元に戻り、然るべき時に復活する。悪魔は戦を重ねれば重ねるだけ数が減っていた。そして魔界が落ちれば、当然、魔王である俺に待つのは死だと思っていた。
羽と魔力を奪われ、地上へ落とされるぐらいで済んだのは……奇跡に思えた。きっとソフィアのおかげだよ。捕えた天使を堕天させない、捕虜となった天使が暮らす村を作る、そういった政策をとっていたから俺は殺されずに済んだ」
「それは私だけの力ではありません。マティアス様は和平交渉をされましたし、捕虜の引き渡しにも応じました。それに命乞いした天使のことは見逃していました。これまでの魔王とは大違いだと、ロルフとベラも言っていました」
「ありがとう、ソフィア」
「……マティアス様……」
「ともかく、そんな状況だったからソフィアに想いをなかなか告げることができなかった。地上に落ちてからは……城にいた頃よりもソフィアとの距離が近くなって気持ちを抑えるのに苦労した」
ソフィアは今も手を伸ばせばすぐ届く場所にいた。
「……ソフィア」
手を伸ばし、ソフィアの頬に触れた。
ソフィアは目を閉じ、俺の手に自身の手を重ねた。
「俺も限界だった。だから昨晩、いつになくソフィアが積極的にいろいろ質問した時、ちゃんと話すと言っただろう?」
ソフィアは目を閉じたまま頷いた。
「思いがけないきっかけで今日、すべてを話すことになったが、ちゃんと話をするつもりだったよ」
ソフィアは目を開け、重ねていた手を離した。
俺は伸ばしていた手を戻した。
「昨晩は……ベラに言われて頑張っちゃいました」
「え……」
「せっかく二人で温泉に行けるなら、少しは距離を縮めないとダメだって、ベラからアドバイスされていたんです。……ベラはとうの昔に私のマティアス様への気持ちに気づいていました」
「そうだったのか。……というか、そんなに昔からソフィアは俺のことを……」
「お城の部屋で目覚めて、初めてマティアス様を見た時、その優しい眼差しに、いきなり心を鷲掴みにされてしまいました。記憶がない私にマティアス様は『焦る必要はない、少しずつここでの生活に慣れ、新しい自分を始めればいい』そう言ってくださって……。
私にはマティアス様しかいなかったのですが、マティアス様は魔王で、沢山の部下を抱え、国政を担う立場でした。足を引っ張らないように、嫌われないように、少しでも長くお傍にいられるようにとしているうちに……。マティアス様は私にとって特別な存在になっていました」
「ソフィア……」
「マティアス様の存在が私の中で大きくなればなるほど、不安もありました。いつお妃様を迎えるのか。素敵な女悪魔の元へ通うになるのではないかと。もしそうなっても私は止める立場にはないと思うと、切なくなりました……」
「……そんなことを思っていたのか? 俺に女を作ってどうかする暇なんてないって、秘書であるソフィアが一番よく分かっていたと思ったのに」
「それでも、ですよ。マティアス様は魅力的だったので、お城の中でも多くの女悪魔からマティアス様と会う時間を作って欲しいとか、寝所に忍び込みたいだとか、いろいろ相談を受けていましたし」
知らなかった。
まさかソフィアがそんな相談を受けていたなんて……。
「ソフィア、すまなかった」
「大丈夫ですよ、マティアス様」
そう言って笑うソフィアはあまりにも可愛らしく。
俺はいい年をして初恋のような甘い気持ちに満たされていた。
「じゃあ明日に備えてそろそろ休むか」
「はい」
ソフィアはそう言うとグラスを持って立ち上がった。
グラスを片付けたソフィアがこちらへ向かって歩いてくる音が聞こえた。
俺は布団に横になっていたが、上半身を起こし、声をかけた。
「ソフィア、こっちへおいで」
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次回更新タイトルは「抑えきれない感情」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も学校、お仕事、頑張りましょう‼
【お知らせ】4作品目、本日最終回‼
『歌詠みと言霊使いのラブ&バトル』
https://ncode.syosetu.com/n7794hr/
バトルパートでは激しい戦闘もあればコミカルな戦いもあり
恋愛パートは思春期の男子らしいHな描写もあれば、甘く切ない展開もあります。
仲間との友情も描かれています。
全67話で、初となるお昼の時間帯、11時に数話ずつ公開していましたが
本日、最終回を迎えました‼
一気読みもおススメです。
良かったらこちらの作品もよろしくお願いいたします。




