期待以上の成果だ
声が出るか半信半疑だったが。
「ミカエル」
ちゃんと声は出た。
「俺はお前の指示に従い、魔界へ向かった。そして魔界で起きていることを、この目で見た」
ミカエルは神秘的な瞳を細める。
「何を見た、マティアス?」
「奇跡を見た」
「……奇跡。それはどんな奇跡だ、マティアス」
「魔界にいた悪魔は、魔力と翼を奪われ、人間として地上へ全員堕とされた。魔界に残ったのは、捕虜となった元天使だった者だ。そして主は、彼らのことを天使に戻した。祝福を与え。天使に戻れば、喜んで天界に戻ってくる。そう、考えていたはずだ。でも、彼らは天界へ戻らなかった」
ミカエルは静かに、俺の言葉を聞いている。
「お前たちは困惑した。悪魔に誘惑され、心を病んだとでも思ったのか。魔界で過ごした辛い記憶を消そうと考え、忘却の矢を使おうとした。すると魔界にいた元は捕虜だった天使は、抵抗を示した。忘却の矢を使おうとする天使軍に対し、彼らはレジスタンス軍を結成した。天使は捕虜だったはずだ。なぜそんなことに? 理由は簡単だ。俺は捕虜となった天使の自由を認めた。悪魔との婚姻を認めた。それを天界は汚らわしいもの、冒涜と考えていた。でも当事者の天使は違った。愛したんだ、悪魔を。だから地上へ堕とされた、愛する悪魔との再会を願った。そして主に対し、こんな祈りを捧げだした」
俺は一呼吸おき、ケイシーの祈りの言葉を口にする。
「地上に堕とした善良な悪魔を魔界へ戻してください。罰すべき悪魔を地上へ残し、罪なき悪魔は魔界へ戻してください」
ミカエルの表情に変化はない。
ただ、俺の次の言葉を待っている。
「天使が悪魔を助けるために、主に祈りを捧げている。それも一人や二人ではない。魔界に残っている元天使軍の騎士約3万が毎日祈った。当然、ミカエル、お前もこの奇跡に気づいたのでは?」
俺はミカエルの瞳を見たが、ミカエルは微動だにしない。
「悪さをした悪魔はそのままに、善良な悪魔を魔界に戻す。祈りの内容に、理不尽なことは含まれていない。しかしいくら主と言えど、奪った翼と魔力を悪魔に戻す、なんてことはできない。だから、俺を魔界へ向かわせた」
ミカエルは最後まで俺に話させるつもりなのだろう。
そのまま一呼吸すると、俺は話を続けた。
「俺は、元魔王だ。もう悪魔ではない。人間を口づけ一つで堕落させることができるのは――純血種の魔王の血筋をひく悪魔だけ。そこで俺は見つけ出した。自分の腹違いの弟とその婚約者を。そして二人を結婚させた。二人の名はオリアクスとルル。正統な純血種の魔王の血筋をひく悪魔だ。この二人の悪魔が、一度は地上へ堕とされ、人間となった悪魔を元に戻し、魔界へ帰した。今、魔界はかつてないほど平和だ。愛する者と再び結ばれた悪魔と元天使。魔界を好む天使が、仲良く暮らしている」
ついにミカエルが口を開いた。
「期待以上の成果だ、マティアス。元魔王よ。それだけの才覚がありながら、魔王だったとは……」
余計なお世話だと思った。
「俺は魔王として生きたことを恥じるつもりはない。それよりもミカエル、俺は使命を果たした。そしてそれは、お前自身が『期待以上の成果』だと認めた。ならば俺のアドバイスと要求を、一つずつ聞いてもいいのでは?」
ミカエルは俺の言葉に反応しない。
それにひるむことなく俺は続けた。
お待たせいたしました!
きっちりこのエピソード3で完結させます!
引き続きよろしくお願いいたします!




