ミカエル対策
「しかし、こんなマントをつけて朝食か? 朝からフルコースでも食べるのか?」
俺の問いにエウリールは、楽しそうに笑う。
「いや、このマントはな、ただのマントではない。気づいていると思うが、おれの瞳と同じサファイアブルーをしているだろう? このマントには、大天使であるおれが与えた加護が込められている。おれの宮殿で、おれの加護が込められたマントを着ている限り、マティアスとソフィアは、疑似的におれと限りなく同格に近い状態になる」
「……ミカエル対策か?」
エウリールは目を細めて頷く。
「これでアイツの前で跪いたり、感情を抑制されたり、意志に反した言葉を発しないで済む」
そうまでしないとエウリールであっても、ミカエルの力を抑えられないのか。
分かってはいたが、ミカエルは……天界において限りなく無敵の存在だ。だが、俺が魔王だったら、互角に渡り合えたかもしれないとエウリールは言っていた。一度も戦うことなく天使になったことを、少し残念に感じる。
「お待たせいたしました」
食事を運ぶ天使達が、続々と部屋の中に入ってくる。
フルーツやサラダに加え、焼き立てのパンが並べられた。
「ではいただこうか」
エウリールが食前の祈りの言葉を始める。ソフィアと俺もそれに習う。
「さすがにここではな。これを言わないと、主が不機嫌になる」
いつも奔放に見え……実際に奔放だが、エウリールは真面目だ。俺の任務にも常に忠実であったし、本当に有言実行だった。
「どうした、マティアス? 口に合わないか?」
エウリールが俺を見る。
「いや、大丈夫だ」
止まっていた手を動かす。
挽肉の代わりに、高野豆腐を使ったパイを食べたソフィアは「絶品です!」感動している。そして「今度家でも作りますね」と俺を見て微笑んだ。
エウリールは宮殿あるあるでさらにソフィアを笑わせ、朝食の席はとても楽しいひと時になった。
食事を終え、コーヒーを楽しんでいると……。
エウリールが「来るぞ」鋭くそう言った次の瞬間。
輝くようなホワイトブロンドの髪。宇宙を思わせる神秘的な色の瞳。すっきりとした目鼻立ちに透き通るような白い肌。体は見事な黄金比。
光を放つ翼が見えたのは、一瞬のことだ。
ミカエル――。
跪くことはなかった。
でも全身にとても強い力を感じる。その力を懸命に支えているような状態で、指一本動かせる気がしない。
だが。
「おはようございます、ミカエル。このような早朝からどうしました?」
エウリールが、ウリエルらしく声を放った瞬間、その強い力がかなり緩和された。
やはりここはウリエルの宮殿。
大天使ウリエルの力が、間違いなく作用している。
「戻っていたのだな」
穏やかで優しい声が聞こえてくる。
俺の中でくすぶっていたミカエルへの負の感情は、すぐさま沈静化された。
「ええ。昨晩、戻りました。今日にでもマティアスを連れ、報告へと思っていたのですが」
エウリールが優美に微笑む。
その瞬間、ミカエルに言うべきことを言う、という意志が唐突に思い出された。
「その報告を待っていたよ。聞かせてもらおうか」
ミカエルがそう言うと、何もない空間に突然立派な椅子が現れた。
椅子……と言っていいのだろうか。
巨大な牡鹿の角を左右に広げたような、白亜の玉座……そこにミカエルは、ゆったりと腰を下ろした。
「ではマティアス、報告を」
エウリールが俺を見た。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
今後の展開ですが、二つのルートがあります。
片方のルートで更新を続けると、残り3つのエピソード(Episode4~Episode6)があります。
つまり長期連載が続くことになります。
別のルートですと、本エピソード(Episode3)で完結になります。
アクセス解析なども見て、考えていますが
どちらで更新をするか決心ができていません。
ついてはしばらく考えるお時間をいただけないでしょうか。
大変申し訳ありません。
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悩んでいましたが、踏ん切りがつきました!
Episode3で完結で、更新を3月8日(水)の21時から再開しますっ!
よろしくお願いいたします!




