エウリールの宮殿
「これは……」
ソフィアが思わず感嘆の声をもらした。
俺も思わず声が出そうになっている。
エウリールの後に続き、すっかり暗くなった夜空を飛んでいくと、俺達の暮らす街から三十分ほど飛んだ場所に、巨大な街があると思ったのだが……。
それは街ではなく、エウリールの宮殿だった。
「エウリール、これが宮殿、なのか!? 建物も沢山あるし、まるで……街のようだが」
尋ねずにはいられない。
「まあ、街だよな。これだけでかいと。正直、おれは日本のワンルームで満足だが、大天使ともなると、そうはいかない。この宮殿では、沢山の天使が『役割』を担い、共に暮らしている。天使に『役割』を与えるのも、大天使の役目の一つなのさ」
それにしたって広すぎる。
魔王城も相当広いと自負していたが、その比ではない。
天界と魔界の力の差を、見せつけられた感じだ。
「あれがマティアス、今晩お前がソフィアと過ごす部屋だ」
エウリールが指さす建物は、それは丘の上の神殿と同じぐらいの大きさだ。
ゆっくり、その建物の前に降り立つと……。
男女の天使がそれぞれ五名、合計十人が建物から現れた。
「彼らがマティアス、ソフィア、それぞれの世話をしてくれる。こんなことまで世話をされるのか、と思うかもしれないが、それが彼らの『役割』だ。受け入れてやってくれ」
エウリールはそう言うと、ソフィアと俺を置いて、別の建物へ歩いて行ってしまった。
「マティアス様、ソフィア様、ようこそお越しくださいました」
十名の天使に一斉に声をかけられ、建物の中へ案内されるのかと思ったら……。
すぐにソフィアと俺は、別々の建物に連れて行かれた。
その建物は浴場だったのだが……。
建物一棟が、丸々浴場になっている。
まるで地上で泊った、旅館の大浴場並みの広さだ。
この広さで、一人で入浴するのか……?
しかも悪魔狩りから戻ってきた時のように、あっという間にキトンを脱がされた。思わず「下着は自分で……」と言いかけたが、エウリールの言葉を思い出し、さられるがままに従う。よもや体まで洗われると思わず、驚くしかない。
魔界でも、昔は手取り足取り世話を焼く習慣があったが、それもすっかり廃れていた。
俺自身、幼い頃に、乳母の手で入浴させてもらった記憶しかない。
確か地上の古代ローマの公衆浴場では、こうやって身体を流してもらうのが、主流だったはず……と、気持ちを静めることにした。
ようやく天使たちから解放され、俺は広すぎる湯船に一人でつかる。
ソフィアも今頃、驚きながら湯船につかっているのだろうか。
こんなに広いなら、一緒に入りたかった……。
いや、ダメだ。
共に入浴するのは、神殿で婚儀を挙げてからだ。絶対に。
入浴を終え、体を拭くところからキトンを着るまで、すべてを『役割』を担う天使にやってもらった。そして寝室へ案内されたのだが……。
最初の建物に戻ってきた。
扉を開けてもらい、中に入ると……。
!? この建物丸々一棟が、寝室、なのか!?
どう考えても無駄に広すぎる。
ベッドのサイズも、見たことのない大きさだ。
だが、それをもってしても、スペースが有り余っている。
これだけスペースがあるのに、ベッドしかないのも不思議だ。
つまり部屋にはベッドしかないので、仕方なくベッドに座る。
……!
これは寝心地が良さそうだ。
ベッドに座った体勢のまま、上体を後ろへ倒す。
……気持ちいい。
ゆっくり目を閉じた。
ソフィアは……まだ来ない。
髪も長いし、乾かすのに時間がかかるのだろう。
このベッドに横になったら、ソフィアは寝心地の良さに驚き、喜ぶはずだ。
ソフィアの姿が瞼に浮かぶ。
ついに天界へ戻ってきた。
きっと明日にはミカエルへ報告をして、すべてから解放される。
そうなれば……。
もう明日の夜には神殿へ行ってもいい。いや、ミカエルへの報告が終わったら即、その足で神殿へ向かおう。
そんなことを考えているうちに、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。
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次回更新タイトルは「普段はキトンで隠れている場所」です。
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