限界が近い。我慢も効かくなりそうだ
温泉宿を後にして、魔界へ戻ると……。
俺達は熱狂的な歓迎で、元天使と悪魔に迎えられることになった。
元天使……ケイシーもそうだが、愛する人と再会した天使の多くがその力を失い、翼のみを残す形となっていた。だが元天使となった彼らの顔には、笑顔しかない。天使であり続けるより、愛する人と共にいることに、喜びを見出した結果だ。
「さあ、マティアス様も、もっと飲んでくださいよ」
魔界の歓迎の宴は、三日三晩続いた。
◇
「マティアス、そろそろ天界へ戻るか?」
そう提案したのはエウリールだ。
この三日三晩、一番酒を飲み、歌声を披露し、多くの天使ときわどいことをしていたエウリールから「天界へ戻るか」という言葉が出るとは思わなかった。
俺が痺れを切らし「そろそろ天界へ戻るぞ、エウリール」と、言うことになると思っていたからだ。
「オリアクスとルル、ケイシーとジゼル。それ以外の天使と悪魔も再会し、愛を確かめ合い、皆、幸せになった。今度こそ、お前の番だ、マティアス。天界に戻り、この結果をミカエルに堂々と報告し、後は神殿へ行くのみだ」
エウリールはそう言うと、俺の肩に腕を回し耳元で囁く。
「マティアス、いくらお前が高潔な精神で禁欲を誓ってきたとしても、いい加減限界だろう? ソフィアはお前の愛を感じ、日を追うごとに美しさが増している。もう我慢できないよな」
それは……エウリールの言う通りだ。
ソフィアは本当に美しさに磨きがかかった。
天使の衣装はキトンだし、無駄な装飾品だってつけていない。
それでもソフィアは美しいと感じられる。内面から滲み出る、美しさがあった。
さらに俺が甘え過ぎて暴走しそうになると、それを制止するのだが……。
最近は本当にぎりぎりのところまで、暴走を許してくれていた。以前であれば、もっと前の段階で止められていただろうに、今ではそれが許されている……。それは嬉しいことでもあるが、リスクもはらんでいる。本当に限界が近いと思うし、我慢も効かくなりそうだ。
だからエウリールの言葉を快諾し、俺は天界に戻ることを、オリアクスとルルにまず伝えた。
「……やはり、兄上は天界へ戻ってしまうのですね……」
オリアクスの表情は分かりやすく曇る。
「もうこの体は悪魔ではないからな。……ミカエルにはちゃんとお前とルルの安全を保障するように交渉しておく。だから安心しろ。何かあれば、また俺も魔界へ顔を出すから」
「兄上……」と一度は涙ぐんだオリアクスだったが、ルルの前ではしっかりせねばという自覚が芽生えたようで、すぐに「分かりました」と力強く頷く。
一方のルルは俺との別れを惜しみつつ、ソフィアとの別れも悲しんだ。
「ソフィアさん、マティアス殿下との新婚生活が落ち着いたら、また魔界にきてくださいね」
そう言ってソフィアに抱きついた。
ケイシーとジゼルとは別れを惜しみつつ、今後もオリアクスとルルの良き友人でいてくるように頼んでおいた。二人はもちろん快諾し、レジスタンス軍は皆、オリアクスとルルから受けた恩を忘れないと約束してくれた。
こうして、俺達は天界へ戻った。
到着は夕刻になり、神殿前の丘には、いつものようにランタンの明かりと精霊の光で、幻想的で美しい景色が広がっている。
「あー、マティアス、今晩はおれの宮殿に泊まらないか?」
丘を下ったあたりに着地すると、エウリールが唐突に提案した。
「エウリールの宮殿?」
街の入口は見えていて、ソフィアと俺の家はもう目と鼻の先だ。
「どのみち、ミカエルと会うことになる。その時、奴のフィールドではなく、おれのフィールドで会いたいと思う。さすがにおれの宮殿であれば、無条件に体を従わされることはない。交渉を有利に進めるには、本拠地に相手を乗り込ませる。これ、基本だろう?」
「まあ、そうだが……。エウリール、お前の宮殿であれば、片膝を地面について跪かずに済むのか?」
エウリールはニヤリと笑う。
「ああ。ミカエルが本気でブチ切れない限りな。マティアス、お前だってミカエルと会話をしたいだろう?」
「当然だ。一方的に命じられるのは……」
顔色の変化に気づいたエウリールは「まあ、まあ、落ち着け」と俺をいなす。
「じゃあ俺の宮殿に行くのでいいな? ソフィアもいいか?」
俺が頷き、ソフィアも「もちろんです」と答え、エウリールの宮殿へ向かうことになった。
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次回更新タイトルは「エウリールの宮殿」です。
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