悪魔狩り
そんな状態になっていたある日、天使がやってきた。
天使は地上へ落ちた悪魔を始末する、悪魔狩りを定期的に行っていた。
戦で地上へ落ちる悪魔が多かったからだ。
俺は森で狩りをしている最中に、天使に見つかってしまった。
天使は三人一組で動いていた。
だが俺を見つけた天使は一人だった。
すぐに矢に魔力を込め、その天使を倒した。
その瞬間、背後から放たれる矢に気づいた。
俺はそれを避けようとして、思いっきり突き飛ばされた。
ソフィアだった。
ソフィアは離れた場所で薪を拾っているはずだった。
どうしてこのタイミングで現れたのかは分からない。
だが明確に分かったことがある。
それは、天使が放った矢は、俺ではなくソフィアの体を貫いていたことだ。
天使は悪魔を殺めることは許されても、人間に手を下すことは許されていなかった。
ソフィアが倒れるのと同時に、離れた場所で白い炎が上がった。
天の裁きが下された。
罪のない人間の命を奪った天使は白い炎に焼かれ、ソフィアの魂は天界へ召された。
ほんの一瞬の出来事だった。
まるで瞬きするような時間で起きた出来事により、状況が一変した。
まだ、それが現実だと受け入れることができずにいた。
信じられない気持ちで、倒れるソフィアの元に歩み寄った。
全身の力が抜けるように、その場に膝から崩れ落ちた。
震える手でソフィアに触れた。
その瞬間、世界から色が消えたように感じた。
脳裏で、絶壁に咲く美しい花が散っていった。
俺は既に魂を失ったソフィアの体を抱きしめ、何度もその名を呼んだ。
天界という、俺の手が届かない場所に行ってしまったソフィアを想い、涙がとめどなく流れた。
項垂れた俺の首元に冷たい物が当てられた。
「……これは驚いた。こんなところで魔王の御子息に会えるとは」
その気配は、ただの天使ではない。
それに一目で俺が誰であるか見抜いた。
大天使に名を連ねる一人であることに間違いなかった。
親父も……魔王も大天使に討たれたなら許してくれるだろう。
既に死んだと思った息子は生きていて、大天使に討たれたと分かれば、喜びはすれど怒りはしないはずだ。
もう、ソフィアには会えない。
生きる屍になるぐらいなら、潔く死を受け入れよう。
俺はソフィアの体を大地に横たえ、両手を挙げた。
「せめて彼女を埋葬させてくれ。それが済んだら俺のことは好きにすればいい」
「……ほう。珍しいことを言いますね。悪魔が人間の遺体を埋葬したい、とは。しかも次期魔王が?」
「……」
「……美しい女ですね。天使に相応しい美しさです。今頃、彼女の魂は天界に迎えられ、生前と変わらぬ姿を取り戻したことでしょう」
「……」
「もう一度、会いたいとは思わないのですか、この女に」
「……」
「黙っていては分からないですね。取引に応じるつもりはないですか?」
「……取引?」
「彼女の魂は天使何人分に値しますかね?」
「まさか……」
「そうですね。千、いや、一万。捕虜として捕えた天使一万と交換です。堕天させていない、穢れていない天使一万とこの女の魂を交換しましょう」
「そんなこと、お前の主は許すのか?」
俺は思わず振り返った。
その神々しい光に俺は目が眩んだ。
「許すも何も、有言実行、これがわたくしのモットーです。たった一人の犠牲で一万の天使が助かるのですから」
「だが彼女がその交換を拒んだら?」
「拒むわけはないですよ。お前との記憶を見せますから」
「……! そんな禁忌を……」
「構いません。わたくしは今の天界の体制が良いとは思っていません。女と捕虜の交換が終わったら、わたくしも堕天してそっちへ行くつもりですから」
「大天使が堕天するのか⁉」
「ええ。お前は悪魔で次期魔王であるのにかなり変わっています。人間の女なんて快楽のための存在としか思わぬのが悪魔の本能。それなのにその女は男を知らぬ清らかな体のままでした。
そしてわたくしはお前が地上へ落ちる経緯をこの目で見ています。自分の命が一番大切と考える悪魔とは思えない行為でした。次期魔王が、部下二人を助けるために死地に乗り込むなど前代未聞。
お前はこれまでの悪魔とは違います。お前なら長きに渡る天界と魔界の戦に終止符を打つことができるかもしれないですね。……まあ、その結果として魔界が消えるやもしれませんが」
「……俺が変わっているというなら、お前もかなり変わっているのでは?」
「まあ、そうですね。で、次期魔王、名は?」
「マティアス」
「マティアス。覚えましたよ。わたくしの名は……まあ、近いうちに分かるでしょう」
「……」
「ではわたくしは手ぶらで帰るわけにはいきませんから、他に悪魔が生き延びていないか探しに行きます。とっと埋葬を済ませ、魔界に戻ることですね。この辺りに狩るべき悪魔はいないと報告しますが、もたもたしているとマティアス、お前の強い魔力に気づいた天使がやってきますよ」
そう言うとその大天使は俺のもとを去った。
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次回更新タイトルは「大天使からの手紙」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も学校、お仕事、頑張りましょう‼
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