ここで暴走してはいけない。絶対に。
「マティアス様、起きてください!」
元気なソフィアの声で起こされた。
「どうした、ソフィア。まだ起きるには早くないか?」
「そうなのですが、外を見てください、マティアス様」
上半身を少しだけおこし、窓の方を見る。
ソフィアは俺に見せるため、窓の障子を開け放っていた。
「……!」
窓の向こうの日本庭園には、雪が積もっている。
エウリールか?
美しい景色だった。
木々を覆うように積もった雪。
灯篭の上にこんもりのっかる雪。
空に雪雲は既になく、青空が広がり、朝陽が差し込み始めている。
庭園の池には白い靄が立ち、そこに届いた朝陽が、なんとも言えない幻想的な景色を作り上げていた。
「雪見風呂ができますよ、マティアス様」
「……!」
布団から起き上がった。
「マティアス様、先に入っていいですよ。私はマティアス様が服を着ている間に、こっそり入りますから」
部屋から露天風呂は丸見えだったので、俺が先に入り、俺が出た後にソフィアが入る。
それは妥当な提案に思えた。
だから俺はすぐ露天風呂に向かった。
浴衣は慣れてしまえば、着るのも脱ぐのも、キトンと同じぐらい楽だ。
湯船につかる前の一瞬は、筋肉がついている俺でもさすがに寒いと思ったが……。
でも湯船に入ってしまえば。
丁度いい温度だ。
全身が温かいお湯を喜んでいる。
自然と大きく息をはき、そして清々しい朝の空気を吸い込んでいた。
ソフィアの言う通り、雪を被った庭園を眺めながらの露天風呂は……最高だ。
その時。
瞼を両手で覆われた。
「……マティアス様、しばらく、目を閉じていてくださいね」
ソフィア……?
ちゃぷん。
ちゃぷん。
俺の入る露天風呂のお湯が、揺れるのを感じる。
まさか……。
心臓が信じられないほど高鳴っていた。
「……いいですよ、目を開けていただいても」
ゆっくりと目を開ける。
目を開けてなくても、もう分かっていた。
ソフィアが俺の隣にいる。
一緒にこの露天風呂に入っている。
その真実に、どうしようもなく体が反応していた。
懸命に深呼吸を繰り返す。
ソフィアに誘惑され、自分の中の衝動を抑えるために、必死で深呼吸をしたことがある。そして今、その時と同じぐらい真剣に、深呼吸を繰り返した。
「素敵ですね……」
声に思わず隣を見てしまい、息を飲んだ。
金髪の長い髪は結い上げられ、首筋にはうなじが見えている。
胸は薄手のタオルで隠されているが、それ以外は……。
湯気の中に白い肩が見えている。
静かに目を閉じた。
ここで暴走してはいけない。絶対に。
「お湯につかっているところはぽかぽかですが、肩は少しヒンヤリしますね」
そう言うとソフィアが俺に身を寄せた。
体に触れるソフィアを感じ、もう露天風呂どころではなくなっている。
だが、それをソフィアに悟られまいと、その肩に腕を回した。
「これだと寒くないか、ソフィア?」
「マティアス様」
俺を見上げるソフィアは……。
湯気に包まれ、頬はバラ色に染まり、唇は艶やかに濡れ……。
信じられないほどの色香を、感じさせた。
何もしない。
そんなことは、到底無理だ。
気づけばキスをしていた。
それでも。
キス以外は自制していた。
顎に添えた手を、動かしてはならない。
絶対に止まらなくなる。
今はキスに集中し、余計なことはしない。
その結果、熱烈なキスをし続けることになり、ついにソフィアが……。
「マ、マティアス様」
空気を求め、ソフィアが喘いでいる。
その表情があまりにも煽情的で、俺は限界だった。
「のぼせそうだから、俺は先に出るよ、ソフィア」
もう爆発しそうな気持を抑えこみ、おでこにキスをする。
俺が出ると分かったので、ソフィアは目を閉じてくれた。
必死の思いで脱衣所へ向かう。
一刻も早く神殿で婚儀を……。
もう何度目の誓いになるか分からなくなっていたが、心に強くそう思った。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
この投稿を新たに見つけていただけた方も、ありがとうございます!
次回更新タイトルは「限界が近い。我慢も効かくなりそうだ」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も勉強、お仕事、頑張りましょう!!




