君の帰りを待っている
だが。
「わたくしの鞭を振るう必要がある罪は、見受けられませんでした」
そう言うと、エウリールは土下座したまま、固まっていた中年男性に手を差し出す。
「あなたは魔界で、捕虜になった天使の怪我の治癒に、尽力しましたね。魔界では医師だった。あなたの正しい行いを、主はお認めになるでしょう」
エウリール自らがその手をつかみ、中年男性を立ち上がらせた。
すると。
魔界では医師だったというその男性は、涙をこぼして喜んだ。
その喜びが周囲に伝わり、凍り付いていた空気が氷解する。
「ここにいる元悪魔の皆さんに、問題は見当たりません。オリアクス、ルル、あなた方の世界の祝福を、与えておやりなさい」
エウリールがその場を離れ、オリアクスとルルが皆の前に出た。
二人は自分達が何者であるか名乗り、そして俺とソフィアを紹介する。
俺が元魔王だと分かると、全員が驚愕した。
「マティアス殿下、人間となり、そして天使となった今も、我々のことを気にかけてくださり、ありがとうございます。この御恩は、私の夫であるケイシー共々一生忘れません」
そう声をかけてくれたこの女性が……。
「シャックス家の次女ジゼルだな。ケイシーは魔界で君の帰りを待っている」
ジゼルはその瞳を大きく見開き「本当ですか」と驚いた顔をした。
魔界へ戻れると知らせたが、個々の事情を知らせたわけではない。魔界に戻れても、そこに自分の夫が待っているとは思わなかったのだろう。
「ケイシーは主の祝福を受け、天使に戻った。だが天界に戻らず、魔界に残った。そして君の帰りを願い、主に祈り続けている。今も君を待っている」
ジゼルの瞳から、涙がこぼれ落ちる。
「ケイシー……」
愛する人の名を口にして、崩れ落ちそうになるジゼルの体を、ソフィアが支える。そしてその体をソフィアが抱きしめると、優しい光がジゼルを包む。
癒しの力だ。
ジゼルの顔から涙が消えた。
「……天使の癒しは……こんなに優しい力だったのですね」
ジゼルはため息をつく。
「天使と悪魔が手を取り合い、生きていくことができる証として、これからもケイシーさんと幸せでいてくださいね」
ジゼルが笑顔で頷いた。
その間にもオリアクスとルルは、祝福の口づけを与えている。地上に堕とされた悪魔は、次々と人間から悪魔へ戻っていく。
「マティアス、まだ奥の部屋にも待機している悪魔がいる。あと20名だ」
「分かった。ロルフ、連れて来てくれ。……エウリールは?」
「ここにいる」
エウリールが奥の部屋から出てきた。
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次回更新タイトルは「オレ、ルル様希望」です。
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