罪の告解
翌日、というより、まだ夜が明けきらないうちに、俺達は地上へ出発した。
人目につきたくない、というのはもちろん、天使に遭遇したくない、というのも、この時間での行動につながっている。
天使は主から力を与えられているため、その存在が光に属している。
対する悪魔が属するのは闇。
ゆえに天使が行動するのは、明るい時間がほとんどだ。
だからこその、この時間。
魔界を抜け、地上の空気を感じ始めると、ソフィアは少しホッとした顔になっている。
「寒さがおさまったか、ソフィア?」
「はい。寒さもそうですが、呼吸も楽になりました。今さらですが、本当に自分が天使になったのだと実感しています」
「俺もだよ。寒さはそこまでではなかったが、ここにきて気づいた。魔界ではだいぶ呼吸が浅くなっていたのだと」
エウリールによる天候操作で、確かに魔界に届く神の力は、弱まっていると実感する。
その一方で、オリアクスとルル、そして執事のオソは、安堵の表情を浮かべていた。魔界に満ちる神の力から、解放されたからだろう。
「ソフィアさん、あれが話してくださった、巨大なタワーですか?」
「ええ、そうですよ、ルル様。日没から0時まではライトアップされ、とても綺麗ですよ」
「そうなのですか。夜にまた来てみたいですね……」
そんな会話を交わしているうちに、地上へ到着した。
ここは――そう、日本だ。
日本に堕とされた悪魔たちの集合場所は、もちろんエミリアの店だ。
「兄上、すごい建物ですね。本で見てはいましたが、実物を見るのは、これが初めてです」
地上へ降りること自体が初めてだったオリアクスは、巨大なビル群に感嘆している。
「地上がどんな場所なのか、この機会にじっくり見ておくといい」
俺の言葉にオリアクスは「はい!」と素直に返事をした。
「こちらです、オリアクス様、ルル様」
ソフィアに促され、二人は降下を始める。
エウリールが周囲を警戒する中、オリアクスとルルが、遂に地上に降り立った。
まだ電車も走っていない時間だ。
人の姿はほとんど見当たらない。
エミリアの店が入ったビルに、ソフィアを先頭に向かう。
俺達がビルに入るのを確認すると、エウリールもゆっくりビルに入った。
「エミリアさん、ソフィアです。開けてください」
入口のドアで、ソフィアが声をかけると……。
ゆっくり扉が開く。
「ソフィア!」
ドアを開けたのはベラで、ソフィアに抱きついた。
店の中には、三十人ほどの元悪魔の人間がいる。
カウンターから、エミリアが出てきた。
「マティアス、全員、身元は確認済よ。……悪さはしていない、と、みんな言っているけど」
そこにエウリールが入ってくる。
その瞬間。
その場にいた元悪魔の人間が凍り付いた。
そして。
突然、一人の中年男性が立ち上がる。
「す、すみません。あの、ぼ、ぼくは先日、酒に酔った勢いで、ち、近くに座っていた人間の女性の……せ、生気を吸ってしまいました。でもそれ一度限りで、猛省しています」
がくがくブルブル震え、耐えきれなかったのか、その場に座り込んだ。
「ほう。自ら申告を。その人間の女性はどうしたのですか?」
エウリールが……ウリエルがその男性に近づくと、周囲にいた元悪魔たちが一斉に席を立つ。
壁際に逃げたり、テーブルの下に隠れたり。
「は、は、い。お店の、す、スタッフに、飲み過ぎで、ぐ、具合が悪そうだと、申告し、き、救急車を呼んでもらいました」
土下座しながらその男性は答える。
「なるほど。ではその場で自分の罪を悔い、女性のことを助けようとしたのですね」
「は、はい」
するとエウリールは、その場にいた元悪魔の人間に、ゆっくりと視線を向けた。
「他にはいないですか? この男性のように、告解をしたい者は」
エウリールの澄んだサファイアブルーの瞳に見つめられると、嘘をつくことはできないようだ。
次々と手を挙げ、自身の罪の告解が始まる。
結局全員が、自分が思うなんらかの罪について告白を行った。
すべてを聞き終えたエウリールは……。
すっと自身の腰につけている鞭に、手を触れる。
その瞬間、店内の空気が凍り付いた。
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次回更新タイトルは「君の帰りを待っている」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も勉強、お仕事、頑張りましょう‼




