頼もしいエウリール
シャックス家の調理場には、ほうれん草のキッシュ、かぼちゃパイ、野菜のスープ、それ以外にも沢山の果物やお菓子などが届けられていた。
それらを俺達は有難く昼食としていただき、そして書庫で再会したオリアクスの件をエウリールに話した。
「そうか。オリアクスが協力してくれるのか」
食事が始まると、エウリールは真面目に話を聞き始めた。
真摯な顔つきのエウリールを見るにつけ、女天使にキスをしようとしていた姿が嘘のようだ。
食欲とは無縁のはずだが、空腹過ぎたエウリールは、女性の天使で欲求を抑えようとしていた……そんな風にさえ思えてしまう。
「オリアクスは協力すると言ってくれているが……。魔界は清められ、神の力に満ちている。書庫ではかろうじて魔術で神の力を抑えているが、今の魔界にオリアクス達が出てくるのは無理だ。協力するためには地上へ行く必要があるのに、オリアクス達は、書庫から出ることさえできない」
「つまり、魔界に満ちる神の力を弱める必要があるわけか」
エウリールの言葉に俺は頷く。
「……その件はなんとかしよう」
「!? なんとかできるものなのか……?」
「ふふ。マティアス、わたくしがお前との約束を、たがえたことがありますか?」
エウリールが大天使ウリエルらしく振舞うと、その言葉を信じていいと思えてしまうのが不思議だった。
「もしオリアクス様が、書庫から魔界へ出てくることができたとして……。魔界から地上へ堕とされた悪魔たちは、散り散りのはず。一人一人見つけ出して、出向くのですか……?」
ソフィアの疑問に、またもエウリールが応じる。
「それは大丈夫だ。おれは各国に拠点があるから、そこでアナウンスをかける。で、日時を決め、そこに魔界から堕ちた元悪魔を集める」
拠点……。
つまりエウリールと関係のある女悪魔か人間の女性が各国にいる、というわけか。
その中にはエミリアのように客商売をしている悪魔もいるだろう。
客商売をやっていれば顔が効く。
散り散りになった元悪魔を集めることも、これなら確かにできそうだ。
エウリールの女好きがこんな形で役立つとは……。
「なるほどです。となるとあとは『罰すべき悪魔を地上へ残し』が難しいですよね……」
ソフィアが食後の紅茶を口にしながら、思案顔になる。
拠点=エウリールと関係を持つ女性であると、ソフィアは思ってもいないだろう……。
「オリアクス達だけを、地上へ行かせるつもりはないだろう? おれ達も同行するつもりだよな?」
エウリールが俺を見る。
「当然だ。純血種の魔王の血筋なんて、悪魔狩りのかっこうのターゲットになる。俺達は護衛としてついていく」
「なら大丈夫だ。魔界へ戻れる悪魔は『罪なき悪魔』だとハッキリ示せばいい。嘘は同行する大天使ウリエルが見抜く。もし嘘をつけば……さあ、何がいいかな。鞭打ち百回か? 舌を引き抜くか。おれが来ると知れば、心にやましいことがある悪魔は、そもそもその場に来ないさ」
「エウリールは……ウリエルはそんなに恐れられているのですか?」
ソフィアが可愛らしい顔でキョトンとする。
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次回更新タイトルは「一万回のキス」です。
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それでは明日も勉強、お仕事、頑張りましょう‼




