本当の名前
翌日、朝から天気が良く、ソフィアは元気いっぱいに目覚めた。
俺はしばらくいろいろ考え、寝付くのが遅くなったが、一度寝付くと深い眠りに落ち、結果としてはよく眠れた感じだった。
朝食を終え、スタッフと合流すると、早速遊覧船へ乗るために移動を開始した。
ソフィアが用意していた酔い止め薬のおかげで、船酔いもなく、しっかり遊覧船を楽しみつつ、その素晴らしさを紹介できたと思う。
遊覧船の後は移動し、昼食をとりながらロケを行い、神社へ移動した。
「マティアス様、いよいよ神社ですね」
移動中のソフィアは願い事をする際は名前と住所も伝えないとダメなんですよ、と、真剣な面持ちで俺に説明した。
よっぽど祈願したいことがあるようだった。
「ソフィア、今日は三か所の神社を巡るんだ。まだ一か所目だから、残りの二か所のために力を使い切るなよ」
俺の言葉にソフィアは「はい!」と元気よく返事をし、参道を進んだ。
神社はなんというか空気が澄んでいるように感じた。
もし魔王としてここに来ていたら、多分天界に踏み込んだ時と同じように、呼吸が乱れ、力が弱まったことだろう。
「マティアス様、ここですよ」
ソフィアが緊張の面持ちで参拝に臨んだ。
俺も手順に従い、二拝二拍手一拝で参拝を行った。
元魔王の俺のささやかな願い、それは四人で平和に暮らしていけるように、だった。
参拝を終えると、ソフィアの顔から元気がなくなっていた。
「気合を入れ過ぎて、スタミナ切れか?」
俺のツッコミにも弱々しい笑顔で応えるだけだった。
だが、スタッフから「ここで笑顔もらえますか?」の言葉に、ソフィアは着合いを入れなおしたようだった。
その後の二箇所の神社の参拝は、いつも通りのソフィアだった。
だから俺は何も問題ないと思っていたのだが……。
ロケを兼ねた夕食を終えると、スタッフはソフィアと俺を昨日と同じように旅館へ送り届けてくれた。
すると、スタッフと別れた瞬間から、ソフィアの様子が明らかにおかしくなった。
俺が声をかけても頷いたり首を振るだけで、話そうとしなかった。
部屋に戻ると、荷物を置くや否やいきなり冷蔵庫からお酒を取り出した。
「おい、ソフィアどうしたんだ⁉」
流石に驚いて、お酒を持つソフィアの手首を掴んだ。
するとソフィアは俺を見て、その碧い瞳からポロポロと涙をこぼした。
突然のことに、息を呑んだ。
「……私の名前はソフィアなんかじゃないですよね、マティアス様」
「えっ……」
「リナ、それが私の本当の名前……」
衝撃で声が出なかった。
「マティアス様、私は誰の身代わりなんですか?」
答えられずにいると、ソフィアは俺の手を振り払った。
「答えてくださらないなら、もういいです」
ソフィアが部屋を出て行こうとした。
「待ってくれ、頼む」
懇願するような声に、ソフィアは足を止め、止まらない涙をこぼしたまま俺を見た。
「……分かった。全部話すよ」
覚悟を決め、俺はすべてをソフィアに話すことにした。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
この投稿を新たに見つけていただけた方も、ありがとうございます!
次回更新タイトルは「魔王の秘密」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も学校、お仕事、頑張りましょう‼
【お知らせ】4作品目更新中
『歌詠みと言霊使いのラブ&バトル』
https://ncode.syosetu.com/n7794hr/
バトルパートでは激しい戦闘もあればコミカルな戦いもあり
恋愛パートは思春期の男子らしいHな描写もあれば、甘く切ない展開もあります。
仲間との友情も描かれています。
全67話で、初となるお昼の時間帯、11時に数話ずつ公開しています。
少しでも興味を持っていただけましたら、来訪いただけると幸いです。




