ソフィアが襲われている?
書庫に用意されていた閲覧テーブルの椅子に、ソフィアと俺はそれぞれ腰かけた。
テーブルを挟み、正面の椅子には、オリアクスとその婚約者のルル、そしてその後ろに二人の執事のオソが立って控えている。
俺と瓜二つのオリアクスだったが、今は鼻の下、顎に髭が生え、雰囲気が変わっていた。
しかも着ている服はグレーのシャツに黒のネクタイとジレ、グレーのズボンに黒革のロングブーツ、そして袖や裾に銀糸の刺繍が施された黒のフロックコート。
つまり城の悪魔の隊服姿である。
一方のルルは、赤い髪をソフィアと同じようにお団子にして後ろでまとめ、赤と黒の縦縞模様の体にフィットした丈の短いジャケット、そして白いリノン製のスカートを履いている。
俺が気絶した後、ソフィアはオリアクス達に、俺が誰であるかをすぐに説明した。
そしてケイシーがしたように、俺の髪や肌の色を脳内で変換し、自分の兄であると、魔王であると、オリアクスは認識した。だから今、こうやって向かい合って座っているわけだが……。
「……オリアクス、順序立てて説明して欲しい。まず、俺の後頭部には、なぜたん瘤ができることになった?」
今はもう完治している後頭部に触れる。
さっきソフィアが天使の癒しの力を使い、治癒してくれた。
天使の癒しの力は、基本的に心の傷を癒すものだが、たん瘤程度の怪我も治せるようだ。
「はい。兄上、説明しますね。まず自分達はこの書庫に潜んでいたのですが、そこに兄上達が入ってきました。正直、最初は誰が入ってきたのか分かりませんでした。でも兄上はほとんど話しませんでしたが、ソフィアさんの声はよく聞こえたので、すぐソフィアさんだと分かりました。そして着ているドレスは見たことがないものでしたが、確かに魔界のもの。それでいてソフィアさんから感じられるのは天使の気配だったので、正直混乱していました」
「それで?」
俺は先を促す。
「天使の気配を感じるものの、ソフィアさんであると分かり、では一緒にいるのは誰なのか、という疑問が残りました。着ている服は兄上のものですが、容姿は兄上ではない。でも声は……。混乱より戸惑いが大きい状態でした。そんな時でした」
オリアクスがソフィアを見た。
「ソフィアさんが躓き、それを兄上が庇い、二人は床に倒れた。すると兄上が……。あらかじめお伝えしておきます。自分達はこの書庫の神の力を弱めるためと、ここにもし天使軍が踏み込んできた時に備え、魔術を展開しています。この魔術はより戦闘能力が強い者に作用する魔術で、研ぎ澄まされた感覚を狂わせる攪乱魔術です。兄上は言うまでもなく戦闘能力がとても高い。だから攪乱魔術が作用し、ソフィアさんの制止を振り切り、襲い掛かるような状況になっていました。その時点で、自分はまだ兄上を兄上と認識できておらず、ソフィアさんを助けなければ、と思ったわけです」
「なるほど。ソフィアを助け、俺を止めるために、魔力を込めた分厚い本で俺を殴った、というわけか?」
俺は棚の上に不自然に置かれている辞書をチラッと見る。
オリアクスは頷き「申し訳ありませんでした」と項垂れた。
「……確かに攪乱魔術は俺に作用していた。それでもここには神の力も存在しているし、魔術の影響は強くなかった。でも錯乱魔術が作用していたのは事実だ。……だが気絶させられる直前に俺は我にかえっていた。でもそんなの分かるはずはない。だから俺を殴ったことは不問だ。むしろソフィアを助けようとし、俺の暴走を止めてくれたことに感謝する。しかし」
俺の言葉に笑顔になりかけたオリアクスの表情が固まる。
「地上へ避難したはずのお前たちが、なぜ書庫にいるんだ?」
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次回更新タイトルは「なぜここに?」です。
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