何のために服を脱がそうとする?
空は澄み渡り、雲一つない晴天だった。
風もなく、寒くもなければ暑くもない、とても心地よい気候。
「マティアス様」
声の方を見ると、神殿の扉の前にソフィアがいた。
透けて見えるほど薄い綿モスリンのシュミーズ・ドレスは、確か水色のはずだったが……。
今見えるハイ・ウエストのそのドレスは、純白だった。
しかも頭には月桂樹の冠に白いベール。
ドレスこそ違うが、冠とベールは……。
天界図書館に飾られている、ラファエルの婚儀を描いた絵画の、アクラシエルのようだった。
ただベールは透けるような薄さなので、ソフィアの顔はちゃんと認識できる。
自分の服装を確認すると……。
シルバーホワイトのシャツに、金糸で揃いの草花柄が刺繍されている、白のウエストコートとミッドナイトブルーのコート、そして無地のミッドナイトブルーのブリーチズを履き、足元は黒革のロングブーツだった。
天界にいるのに、魔王の服装のままだ……。
ぼんやりとそんなことを思いながら、俺は神殿の階段をのぼり、ソフィアの横に立つ。
そうか。
ついに婚儀を挙げることができるのか。
手で扉を押すと……。
動かない。誰かが婚儀を挙げている最中なのか?
扉は一度閉まれば、二十四時間は開かないと言われている。
「ソフィア、扉が開かない。今日はダメなようだ」
俺の言葉にソフィアはにっこり微笑んだ。
「それでは仕方ないですね」
そう言うと自分でベールを持ち上げ、当然と言うように俺にキスをした。
「もう永遠の愛を誓っているのですから、大丈夫ですよ、マティアス様」
そしてそのまま俺に抱きついた。
「大丈夫って、ソフィア?」
尋ねる俺に答えず、ソフィアゆっくりコートを脱がせようとしていた。
なぜコートを脱がせるんだ?
コートを着ていても暑くはないのだが。
バサッと音がして、コートが大理石の床に落ちた。
ソフィアはそのままウエストコートのボタンをはずしはじめる。
「!? ソフィア、何をしているんだ?」
「マティアス様、いつものキトンを着てくださればいいのに」
「!?」
ボタンはすべてはずされ、コートと同じく床に落とされる。
「ソフィア、なぜ服を……」
今度はシャツのボタンまではずしはじめた。
さすがにこれはおかしい、と思い、手を掴んだ。
「何のために服を脱がそうとするんだ、ソフィア!?」
するとソフィアは美しい笑みを浮かべた。
「マティアス様、忘れてしまいましたか? 石碑に『寝所へむかい、生涯の契りを交わすこと。この契りを持って二人の婚姻は成立となる。』と書かれていたじゃないですか」
ソフィアは思いがけない強さで、自身の手を掴む俺の手をはずす。
「!? それはそうだが、それはこの神殿の中に入って、儀式を行ってからで……」
「もうそれは終わったではないですか、マティアス様」
「終わった? 神殿の中にも入れていないのに?」
パサリという音と共にシャツが床に落ちる。
「待ってくれ、ソフィア」
「もう待てません。マティアス様」
そう言うなりソフィアは、自身の身体を押し付けるように俺に抱きついた。
肌で直接感じるソフィアの体の温かさ、特にマシュマロのような柔らかさの胸に、抑えがたい感情が喚起される。
「千年は長過ぎました」
ソフィアはそう言うとそのまま俺に体重を預けた。
!?
その瞬間、俺は階段を踏み外し、ソフィアを胸の中に抱きかかえたまま、階段を転げ落ち……。
「マティアス様!」
「マティアス様!」
「マティアス様!」
目を開けると、俺を覗き込むソフィアの碧い瞳と目が合った。
月桂樹の冠とベールは……ない。
ドレスは……水色だ。
というか、薄暗いし、ここは――。
後頭部がじんわりと重い。
思わず手を動かし、触れると、そこにたん瘤ができていることを確認した。
うん? 濡れたタオルが添えられている?
「あ、兄上、目覚めましたか!?」
その声は――。
俺は声の方を見て驚いていた。
そこに、オリアクスがいた。
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次回更新タイトルは「ソフィアが襲われている?」です。
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