闇が怖い?
「マティアス、褒めてくれよ。おれは自分が有能過ぎて、自分で自分に惚れてしまいそうだ」
そう言って閲覧席の椅子に座ったエウリールは、その長い脚をテーブルの上にのせる。
大天使とは思えない行儀の悪さだが、仕事ぶりはいつも通り完璧だった。
エウリールは、ソフィアと俺が執務室で過去を懐かしんでいる間に、地上に関する本、地上で入手した本で、紛失や貸し出し中の本がないか調べてくれた。
魔界に電力はなく、当然パソコンもない。
羊皮紙に手書きで貸し出し記録をとっていたが、司書を任されていたオリアクスが避難してからは、記録もストップしていた。だから所蔵されている本の情報を記載した図書目録と棚を見比べ、紛失や貸し出し中の本がないか確認する必要があった。
その確認作業をエウリールは、自分の分とソフィアの分を、終えてくれていたというわけだ。
そして図書目録にあるタイトルで、棚になかった本は……。
『地上における悪魔の勢力図』『人間とは』『地上サバイバル術』『旅物語 日本編』『アジア一人旅』だった。
「これだけ見るとオリアクスは……まさかと思うが日本へ避難したのか……?」
エウリールがメモしたタイトルを見て、驚かずにはいられなかった。
「その可能性はあると思います。悪魔が沢山いるヨーロッパや北米を選べば、仲間がいるという安心感につながりますが、その一方で、悪魔狩りは頻繁に行われます。発見されるリスクを考えると、悪魔なんてほとんどいないと思われている日本を選ぶのは……選択としてはあり得ると思います」
ソフィアの言葉にエウリールも賛同した。
「ソフィアの言う通りだよ、マティアス。極東のアジアの島国にいる悪魔なんて限られている。だからマティアスも、魔界が陥落した後、日本へ堕とされただろう。天界は、お前が地上に潜伏する悪魔と手を組み、蜂起することを恐れたんだよ。だから悪魔なんてほとんどいない日本へ、お前のことを堕としたんだ」
「となると日本のどこかにオリアクスがいる可能性は限りなく高いのか……」
「そうですね。でもマティアス様、せっかく鍵をとってきたのです。王族だけの閲覧が許される書庫も、確認しませんか」
俺は「分かった」と言い、書庫に向かうことにした。
「王族だけの閲覧が許されている……となっているが、俺自身、もう王族とは言い切れない状態だ。その俺が書庫に入るんだ。二人も来てもらって構わない」
「分かりました」「おれは休憩」
ソフィアは同意し、エウリールは休憩を申し出た。
俺達がいない間、エウリールはちゃんと動いてくれた。休憩をとるのは当然だ。
だから。
「ではソフィア、行こう」
俺はソフィアの手を取り、書庫へ向かった。
◇
書庫は地下五階にあった。
電気がないのだから、地下は明かりがなければ真っ暗だ。
俺とソフィアはそれぞれランプを持っているが、自分達がいる場所以外は、すぐに真っ暗になってしまう。
魔王だった頃、この闇に何も感じることはなかった。だが天使となった今は、通路の前後から迫る闇を不吉に感じてしまう。
思わずつないだソフィアの手をぎゅっと握っていた。
すると……。
「マティアス様、もしかして闇が怖いのですか?」
「ソフィアは怖くないのか……?」
「最初は怖かったのですが、慣れてしまいました」
天使の力を封印された状態で、千年近く魔界で暮らしたのだ。
ソフィアが闇に慣れるのは当然だろう。
「大丈夫ですよ、マティアス様。今、魔界は神の力が満ちているので、いざとなれば天使の光も使えますから」
「……そうだな」
たかが闇ぐらいでソフィアに励まされるなんて……。
らしくないな。
何を怖がることがあるのか。
城もこの王宮図書館も、元々俺のものなのだから。
深呼吸し、目の前に広がる闇を睨みながら、姿勢を正した。
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次回更新タイトルは「逃れようとするソフィアの動きを封じ……」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も勉強、お仕事、頑張りましょう‼




