時が巻き戻ったかのように
「ありました!」
執務室に着くと、ソフィアは机の一番上の引き出しを開け、書庫の鍵を取り出した。
「これで確認できるな」
「はい」
そう言ってから、二人で改めて部屋を見渡した。
執務室は、あの日から時が止まっていた。
床には乱雑に書類が散らばり、机には読みかけの書類もそのままで置かれている。
棚は王冠や王印などを差し押さえるためだったのだろう。
乱雑に荒らされている。
執務室から続く俺の寝室のドアは開いていたが、中はそこまで荒らされていなかった。
クローゼットのドアが中途半端に開き、枕元に置いていた剣がなくなっていて、甲冑がなくなり、トルソーが倒れているぐらいだ。
「ソフィアの部屋はどうだ?」
二人でソフィアの部屋に向かうと……。
元々ソフィアの部屋は、隠し部屋だったものだ。
魔王を取り押さえた天使軍は、執務室と寝室から王の証となるものを押収できたので、隠し扉には目もくれなかったようだ。
ソフィアの部屋は開けられた形跡もなく、そして部屋の中は完全に時が止まっていた。
「あっ」
小さく声をあげると、ソフィアはサイドテーブルに置かれたノートブックを慌てて閉じた。
「ソフィア、何か思い出の品があるなら持ち帰るか? 宝石とかいろいろあるだろう?」
「宝石は……マティアス様から頂いたものはあの時に身に着けていましたし、他は今となっては……。これだけ、天界に持ち帰ろうと思います」
「……日記か?」
頷くソフィアの頬がバラ色に染まる。
なんとなく、だが、その日記には俺のことも書かれているのだろうと思った。
日記なんて極めて私的なもの。
見せてくれなんて無粋なことを言うつもりはなかった。
だから。
「ソフィア、せっかくだからドレスを着て見ないか? 俺も着替えようと思う」
俺の提案に、ソフィアの目が輝いた。
ソフィアはそのまま自分の部屋に残り、俺は寝室へ向かう。
クローゼットを開け、シルバーホワイトのシャツを取り出した。
合わせるのは、金糸で草花柄が刺繍されている、白のウエストコートとミッドナイトブルーのコート。そしてボトムは無地のミッドナイトブルーのブリーチズ。
黒革のロングブーツを合わせることにした。
姿見に映る自分の姿は、なんだか不思議だった。
衣装は魔王時代に着慣れたものだ。
でも今、俺は金髪に碧眼で肌の色も白い天使だ。
ソフィアはこの姿を見てどう思うのだろう。
とりあえず執務室に戻り、座り慣れた椅子に座り、机に向かってみる。
「……マティアス様」
この姿を見たソフィアは、驚きの表情に変わったが、俺は俺でソフィアの姿に驚いていた。
ソフィアは、ハイ・ウエストのシュミーズ・ドレスを着ている。
胸から下がストンとしている分、大きく開いた胸元と、その膨らみに自然と目が向かってしまう。しかも綺麗な曲線を描く胸元を包み込むのは、透けて見えるほど薄い水色の綿モスリン。裾と袖には金糸で草花模様が刺繍されている。
長い髪は簡単にお団子上にまとめられ、首元にはレースのようなパールのネックレス。
こんなドレス姿のソフィアを見るのは、初めてだった。
「ソフィア、そんなドレスを持っていたんだな……」
ソフィアが嬉しそうに微笑む。
「マティアス様が、初夏にいつも開催していたガーデンパーティーの時に着ようと思い、ずっと前から用意していたのですが……。天使軍のおかげでパーティーはなくなり、着る機会を逸してしまったんです」
ソフィアはそう言った後、こう続けた。
「部屋は荒れていますが、ここは執務室で。マティアス様はいつもの服なのに、でもお姿は魔王ではなく天使で……。なんだか不思議です」
「……ソフィア、いつもと同じように、書類を持ってきてくれるか」
一瞬戸惑ったソフィアだったが、すぐそばの床に落ちる書類を数枚手に取ると、ゆっくりこちらへと歩み寄った。
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次回更新タイトルは「この部屋で何度も抱きたいと思った」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も勉強、お仕事、頑張りましょう‼




