俺のそばを離れたくない、のか?
「俺は鍵を取りに行ってくる」
そう言って王宮図書館の建物から出ようとすると……。
「……ソフィア、どうした?」
「あ、その……鍵が本当にそこにあるか不安なので……。一緒について行きます」
「そうか」
鍵は間違いなく、机のその引き出しにあるはずだ。
……俺のそばを離れたくない、のか?
そう思うと自然と頬が緩む。
いつも城でそうしていたように、ソフィアは俺の一歩後ろを歩き出す。
もう、魔王と秘書ではないのに。
クスリと笑うと、歩く速度を落とし、ソフイァの横に並んだ。そしてその瞬間にその手を握った。
するとソフィアの頬はバラ色に染まり、驚いた顔でこちらを見上げた。
「ソフィアはもう、俺の秘書じゃないんだから」
首筋や耳までバラ色になり、そしてその顔は嬉しそうな表情に変わっていく。
「……なんだか嬉しそうだな」
優しく尋ねると、ソフィアは微笑んだ。
「それはマティアス様、夢が叶ったのだから当然です」
「夢?」
「このお城にいた時は、いつも一歩後ろから、マティアス様の背中を見て歩いていたんです。いつかこの横に並んで歩けたら、手をつなげたら、ってずっと夢見ていたんですから」
思わず立ち止まっていた。
「そんなことを、ずっと考えていたのか?」
「す、すみません。秘書という立場でとんでもないですよね、私……」
「あやまる必要なんてないだろう、ソフィア」
その体を抱き寄せ、やるせない気持ちになる。
この城で、信じられないほどの長い時を過ごした。
そしてお互い好きという気持ちを持っていたのに。
「ソフィア、すまなかった。立場上、ソフィアが俺に気持ちを伝えるなんて無理だった。俺がもっと早く想いを口にしていれば……」
「……マティアス様、エウリールが昨日、言っていたじゃないですか。もしマティアス様が魔王だった時に結ばれていても、天界から邪魔されると」
確かにエウリールは……「魔界の滅びはマティアスの言う通り、避けられなかっただろう。そして天界は魔界と永続的な和平を結ぶつもりなんて、これっぽっちもなかったからな。そうなれば、王と王妃を地上へ堕とす時は、当然離れ離れにしたはずだ。しかも二人の再会を天界は望まないだろうから、徹底した監視と妨害がなされただろうな。もしかすると地上へ堕としてから、忘却の矢を使われたかもしれない」……そう言っていた。
結果的にこの城にいた時に、ソフィアに思いを打ち明け、婚姻関係を結ばなかったのは……正解だったのだろう。
そうだとしても。
「ソフィア、昨日と同じだ。もしまた城にくる機会があった時、魔王と秘書ではない二人でここに来たと思いだせるようにしよう」
「マティアス様……」
ここは王宮図書館に行く時には必ず通る廊下だ。
壁には春の城の景色を描いた絵画が飾られ、窓からは満開になったダリアが見えている。
柔らかい陽が窓から差し込み、俺達二人を照らしていた。
ゆっくりソフィアにキスをした。
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次回更新タイトルは「時が巻き戻ったかのように」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
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