キスの話
城から戻ると夕食となった。
昼間に宴をしていたので、夕食は落ち着いた雰囲気の中、俺達三人とケイシーで摂ることになった。ただワインは当たり前のように用意され、それは有難くいただいた。
程よく酔いが回った状態で部屋に戻る。
「マティアス様、オリアクス様が言わば救世主となるわけですが、オリアクス様の居場所、分かりませんよね?」
ソファで寛ぐ俺のために、ソフィアはコーヒーを用意してくれていた。
「そうだな。オリアクスを守るため、行き先を聞かず、地上へ向かわせたからな……」
ソフィアが入れたてのコーヒーを、ソファの前のテーブルに置く。
「オリアクス様が地上へ避難するとなった時、王宮図書館の本を、何冊かお持ちになったんです。何せオリアクス様は地上へ行かれるのは初めてだったので、不安だったのでしょうね。持ち出した本の中に、行き先につながるような本があるかもしれません。明日は王宮図書館へ行ってみませんか?」
コーヒーを飲んでいた手を止め、その案に賛同する。
「そうだな。行ってみよう。……あとはオリアクスが協力してくれるかどうかだ」
ソフィアは即答する。
「オリアクス様は、マティアス様のことをとても慕っていたので、必ずや協力してくれると思いますよ」
「だといいが……。しかし物凄い数だからな。想像すると唇が乾燥しそうだ……」
「……‼ それは確かに。でも毎日少しずつなら……」
綺麗な桜色の爪をした指で、ソフィアが自身の唇に触れる。
ただ、それだけなのに、無性にその唇に触れたくなってしまう。
「? どうしました、マティアス様」
コーヒーを飲もうと、椅子に座ったばかりのソフィアの横に立ち、身を屈める。
「……うん。キスの話をしていたから」
ソフィアの顎を持ち上げ、パールピンクの唇にキスを落とす。
その一回のキスで、我慢するつもりだった。でもソフィアの手は、俺のキトンをきゅっと掴んだまま離さない。さらに唇を離したが、その瞳はまだ閉じられている。
「……!」
ソフィアがキスを求めていると分かり、胸が高鳴る。
気づけば二度、三度と唇を重ね、それでは収まらず、さらに深いキスを始めていた。
座るソフィアを立ち上がらせ、背中に腕を回して抱き寄せる。後頭部を支えるようにし、さらに激しいキスへと向かっていく。
空気を求め、唇を離した瞬間に、ソフィアが息を弾ませながら「コーヒー、冷めちゃいますね」と囁いた。
その声、その表情はあまりにも可愛らしく、その体をぎゅっと抱きしめる。
「せっかくソフィアがいれてくれたコーヒーだ。ちゃんと飲もう」
ソフィアは嬉しそうに「はい」と返事をして、俺たちはそれぞれソファと椅子に腰をおろす。そしてコーヒーを飲みながら、オリアクスとの思い出を語った。
◇
唇に何か触れたような気がして目が覚めた。
目の前に驚いた顔のソフィアが見える。
「マ、マティアス様、おはようございます」
ソフィアが慌てて離れた。
その瞬間。
寸でのところでソフィアを抱きとめた。
俺たちが寝ていたのは、シングルサイズのベッド。
アンティーク家具のそのベッドは、地上のシングルサイズのベッドよりも、さらに少しサイズが小さい。それでもソフィアが華奢だったので、寝ている分には問題なかった。だが今のように慌てて動くと……。
「あ~、心臓が止まりそうでした。ベッドから落ちたことないので、焦りました。マティアス様、ありがとうございます」
慌てて動くと、ベッドから簡単に落ちてしまいそうになるサイズだった。
「うん。大きいサイズのベッドではないからな。落ちないようにしないと」
そう言いながら、さらにソフィアを抱き寄せる。
「……マティアス様」
ソフィアが甘えるように身を寄せる。
その可愛らしさで、瞬時に骨抜きにされてしまう。
もう今日は一日ここでソフィアを抱きしめて過ごそう。
ぎゅっとソフィアを抱きしめ、動かないでいると……。
「そろそろ起きた方がいいですよね……?」
ソフィアが探るように囁く。
「ソフィアはもう起きたいか?」
「……!」
戸惑いながらソフィアは……。
「……ずっとマティアス様の胸の中にいたいです。どこにも行きたくないです」
真面目なソフィアがそんなことを言うと思わず、驚きと嬉しさで気持ちが高まっていく。
「俺も同じ気持ちだ。いつだってソフィアを離したくないけど、今日は……いや、特に今は……」
ソフィアの頬をそっと包み込み、自分の方に向ける。
「愛しい気持ちがこみ上げて、止まらなくなっている」
そのままキスをした。
「おーい、マティアス、起きているか!」
エウリールの声と、ドアをノックする音が同時に聞こえた。
……そうだよな。たいがい邪魔がいつも入るものだ。
名残惜しい気持ちを抱えたまま、ベッドから起き上がると、ドアに向かった。
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次回更新タイトルは「王宮図書館」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も勉強、お仕事、頑張りましょう‼




