思い立ったら即実行
俺達は今、かつての我が家、そう魔王城へ向かっている。
そろそろ暗くなるこの時間に城へ向かうと言うと、ケイシーは驚いた。
「明日ではダメなのですか⁉ もうすぐ夕食ですし」
確かに明日でもいいのだろうが、思い立ったら即実行の三人が揃っている。
だから。
「皆さんの祈りが叶うかもしれない可能性を確認するのに、必要なことなんです。だから今すぐ行く必要があるんです」
ソフィアがそう言うとケイシーは再び驚いた。
「僕達の祈りのために、わざわざ今から出かけるのですか⁉」
感動したケイシーは俺達に付き合い、一緒に魔王城へ向かっていた。そしてその道中でソフィアはケイシーに、祈りを叶えるためには、純血種の魔王の血筋が必要であることを説明した。
その様子を眺めながら、自分と瓜二つと言われた腹違いの、二歳年下の弟の姿を思い浮かべる。
オリアクスは、先代魔王……親父が地方貴族の娘に産ませた子供だ。
子供の頃に会ったことはなかったが、親父が死に葬儀が行われた際、オリアクスと初めて会った。
オリアクスは俺とそっくりだったので、その時点で既に好感度が高かい。さらに礼儀正しく、性格も穏やかで従順。何より俺を慕う姿に心をくすぐられ、葬儀の後も滞在できるようオリアクスに部屋を与え、そこで暮らすことを勧めた。そして読書好きだったことから、王宮図書館の司書としての仕事も与えていた。
オリアクスの両親はまさか城で息子が暮らせるとは思わず、また仕事を得ることができると思わず、とても喜んでくれた。
オリアクスの母親とは何度か文のやりとりもしていたのだが……。彼女が純血種かどうかを、俺もソフィアも覚えていなかった。
エウリールは、オリアクスの母親は地方貴族ということしか知らない。
だから、オリアクスの母親が純血種であったかどうかを、城の書庫に保管された記録で、確認することになったのだ。
久しぶりに城に帰ってきた。
城の中は荒れている場所もあったが、ほとんどが元のままの状態だ。
「天使軍は、略奪や破壊行為を禁止されていたからな。お行儀は良かったはずだ」
そうエウリールが言うと、ケイシーはこう付け加える。
「我々レジスタンス軍がすぐに行動を開始したので、天使軍は城内をろくに調べることもせず、魔界を出ることになったと思います。そしてレジスタンス軍の天使は、マティアス様やソフィア様を尊敬していますから、お二人の象徴である城を、汚すようなことはしていません。皆さまが地上へ堕とされ、天使軍が去った後、この城に入った者は……今の我々で間違いないでしょう」
その言葉に嘘はなく、階段の手すりやランプのシェードにはうっすらと埃がたまり、長らくこの城を訪れる者がいなかったことを物語っている。
「マティアス様、こちらです」
俺が書庫を訪れることは稀だったが、ソフィアは書類の整理のため、頻繁に書庫へ足を運んでいた。迷うことなく、王族の出生記録を保管した棚に、俺たちを案内する。
外は既に暗く、窓は分厚いカーテンで閉じられている。
手に持ったランプの明かりを頼りに、棚に整然と並ぶ製本された羊皮紙の中から、オリアクスの記録を探した。
「マティアス、脚立を持ってきたぞ」
翼を広げるには手狭だったし、埃も舞いそうだった。だから脚立にのぼり、棚の上の記録を確認していると……。
「あった」
俺の声に全員が動きを止める。
オリアクスの母親、ノックス伯爵家次女リリア・ノックスは……純血種。
「オリアクスの母親、ノックス伯爵家次女リリアは純血種だった。つまりオリアクスは純血種の魔王の血筋だ。オリアクスが、地上に堕とされ人間となった悪魔の額に口づけをすれば、その人間は悪魔に変わる」
この言葉に、その場にいた全員が歓声を挙げた。
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次回更新タイトルは「キスの話」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も勉強、お仕事、頑張りましょう‼




