「無理」な話
「確かに人間を天使として迎えることなら、主ができることだ。でも人間だったら誰でも天使になれるかというと、そんなことはない。地上へ堕ちた元悪魔の人間が聖人の域に達し、死亡することがあれば、まあ天界に迎えられるだろうな。もしくはマティアス、お前の時のように、何の非もないのに天使や大天使の手で命を落とせば、その魂は天界に向かうことになる。が、どちらも難しいよな?」
聖人の域に達する。それは確かに簡単なことではない。
そこに達する前に、寿命を迎える者も当然出てくるだろう。
非のない人間が天使や大天使の手で命を落とす。
天使や大天使による人間の大量殺人なんて聞いたことがない。
難しいというよりこれも『無理』な話だ。
何か方法は……。
ある一つの案を思いついた。
「地上に堕とされた元悪魔が、聖人の域に達する……天界の食べ物を口にするのはどうだ?」
エウリールは残念そうに首を振る。
「まず、天界の食べ物は、地上にあるそこら辺のレストランに行けば提供されるようなものではない。天界の食べ物が手に入る、口にすることができる場所と言えば、地上にある天界の拠点である『神の家』だ。でもここにただの人間が足を踏み入れることは難しい。ただの人間は、そこに『神の家』があるとそもそも認識できないからな」
「では俺が天界から食べ物を持って、地上にいる元悪魔の人間に渡すのは?」
再びエウリールは首を振った。
「天界から勝手に地上へ食べ物を持っていくことは、禁じられている。違反すれば、主による裁きが下されてしまう。例外は、ある。修行を積んだ信仰心の厚い人間に、聖人になるための手助けをする場合だ。その時は天界の食べ物を、主が天使や大天使に命じて届けさせることもある。が、元悪魔の人間が、そこまでの徳を積むのは難しいと、結論付けたよな?」
「そうだな。でもソフィアと俺はただの人間だったのに、『神の家』に入ることができた。これはどういうことだ?」
エウリールは「聞かれると思ったよ」と言い、説明を始める。
「そこに『神の家』があると、大天使であるラファエルがお前とソフィアに認識させた。だから二人は『神の家』に入ることができた。確かにこの方法なら人間も、『神の家』に入ることはできる。大天使であるおれが、元悪魔の人間に、そこに『神の家』があると認識させ、そしてお前とソフィアで元悪魔の人間に、『神の家』に行くように言えばいいわけだ。だがな」
そこで言葉を切り、エウリールは俺とソフィアを見た。
「マティアス、お前は元魔王だった。人間に堕ちた後も、その体は普通の人間よりも強かったのだろうな。そのお前でさえ、天界の食べ物に体が追いつかず、意識を失った。元悪魔の人間だったら、意識を失う、では済まない可能性が高い。修行を積み、強い信仰心がある人間なら、天界の食べ物を口にしても、意識を失う程度で済むだろう。それに回数を重ねれば、天界の食べ物に慣れ、意識を失うこともなくなり、聖人の域に達する助けになるだろう。だが元悪魔の人間では、そうはならない。下手をすれば一口食べた瞬間に意識を失い、そのまま目覚めなくなる可能性もある。つまり最悪死に至る」
衝撃を受ける俺に、さらにエウリールは畳みかける。
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次回更新タイトルは「その瞬間、俺達三人は同じことを考えていた」です。
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