占拠された魔界で起きていたこと
「丁度その頃でした。ジゼルと出会ったのは。女悪魔は性悪で、男女問わずで誘惑をしてくる、汚らわしい者と、天界では聞いていました。でも、そんなことはありませんでした。ジゼルは艶のある赤い髪に、黒い瞳のとても美しい女性でした。
村に来たのは生活に必要な物資を届けるためで、村の家々を回って、物資を配ってくれていました。とても親切で優しく、生まれて初めて誰かを好きになるという感情を覚えました。それからは何度もジゼルに気持ちを伝えましたが、彼女は首を縦に振ってはくれません。自分は悪魔だから、あなたには相応しくないと」
ケイシーの盃は空だったので、俺はワインを注ぐ。
「三年かけて、気持ちを伝え続け、ようやく、ようやく、ジゼルが気持ちを受け入れてくれました。シャックス様に反対されるかと思いましたが、そんなことはなく、ジゼルと結婚することを認めてくれました。そこで知りました。なぜ捕虜となったのに生きていることができたのか。ジゼルと結婚することができたのか。
それは魔王であるマティアス様と、その秘書であるソフィア様のおかげだったと。捕えた天使を堕天させない、捕虜となった天使が暮らす村を作る、悪魔と天使の結婚を認める、和平交渉を行い、捕虜の引き渡しに応じ、命乞いした天使を見逃す……。そう言ったことを、マティアス様とソフィア様がしてくれたおかげで、今があると知ったのです」
ケイシーはそう言うと、手にしていた盃を置き、自身の手を胸に当て、恭しく頭を下げた。
「本当に感謝しています。マティアス様」
「ケイシー、大丈夫だ。頭をあげてくれ」
俺の言葉にゆっくり頭をあげたケイシーの目尻には、涙が光っている。
「捕虜として魔界にやってきた天使が、問題なく生活しているという報告は受けていた。だが、最終的に魔界が天界の手に堕ちた時、皆がどうなったのかが分からなかった。だから俺もソフィアもどうしているのかと心配していたのが……こうやって皆、無事だったのだな」
ケイシーは力強く頷く。
「まさに魔界が天界によって占拠され、次々と悪魔が捕えられるのを見て、我々は天使軍に抗議しました。もちろん魔界には、罰すべき悪魔もいたことでしょう。でもそうではない悪魔もいるのに、裁判もなく、一律に翼と魔力を奪い、地上へ堕とすというやり方は、納得がいきませんでした。
我々が抗議活動を始めると、主は魔界を神の力で満たし、一方的に祝福を与え、我々を天使に戻しました。そして元居た場所へ帰るよう、促しました。到底そんなこと、受け入れることはできません。すると天使軍を使い、今度は忘却の矢で、我々の記憶を強制的に消そうとしたのです。そこからは天使軍と我々……レジスタンス軍は戦闘状態になりました」
衝撃しかなかった。
魔界からすべての悪魔が堕とされた後も、戦闘が続いていた事実に。
しかも戦闘をしているのは、天使軍の騎士と、元は天使軍の騎士だった者たちだ。
本来争う必要がない天使同士が戦闘をするなど、あり得ない事態だった。
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次回更新タイトルは「主とミカエルを悩ます深刻な事態」です。
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